269話 犯人からの要求
「犯人は、元帝国軍の軍人達よ。彼らのリーダーは、ベルカ・グランニード。元帝国の将軍で、強いだけではなくて、信義にも厚い……皇帝と皇妃。そして、皇女に絶対の忠誠を誓っていたわ」
「……そうですか」
リシテアのことを思い返した。
若干の胸の痛み。
彼女のことも、まだ、完全には吹っ切れていないのかもしれない。
俺の問題ではあるが。
しかし、自分の心が理解できず、どのような状態にあるのかなかなか把握できないでいた。
「ベルカを始めとした者達は、自らを『帝国軍』と名乗っているわ。ベルカ達の中では、まだ帝国は滅びていない。諦めていない。勝手に別の国の名前を名乗る私達を叩き潰して、本来あるべき正しい姿に国を戻そうとしている……という感じかしら?」
「……勝手な話でありますよ」
リセが嫌悪感を隠そうとせず、吐き捨てるように言う。
彼女のこういう姿は珍しい。
帝国に対して複雑な感情を抱いているのかもしれない。
「滅びたはずの帝国軍……ですか」
「本来なら、討伐隊を差し向けて終わり。一切の遠慮も容赦もなく、私達が叩き潰す……そうするべきなのだけど」
「奪われた兵器のせいで動きが取れない?」
「正解」
ライラは疲れた様子で頷いた。
「犯人の正体は判明したけど、ただ、兵器の詳細は不明なままなのよ」
「実は、大したことのないものなのかもしれない。しかし……もしかしたら、国を滅ぼしかねないとんでもない兵器かもしれない。そう考えると、自分達は、なかなか動くことができないのでありますよ」
「……厄介な話ですね」
相手の正体は判明した。
しかし、所持する兵器は詳細不明のまま。
相手の手札がわからない以上、どうにもこうにも動きが制限されてしまう。
「で……話を戻すけど、ベルカ達から……帝国軍から要求があったわ」
「どのような?」
「武装放棄と貴族の解体。それと、フェリス様の退陣。まあ、簡単に言うと、アカネイア同盟国を解体しろ、っていう感じね」
「犯人の素性を考えると、まあ、そうなりますね……その要求に対しては」
「もちろん、従うつもりなんてないわ。当たり前でしょう? 国がテロリストに屈するわけにはいかないもの」
「屈するわけにはいかないのでありますが……しかし現状は、まずは皆で話し合いたいと返事をして、時間稼ぎをしているのでありますよ。本当なら部隊を派遣して……自分の剣で裁きを受けさせたいのでありますが、なかなかどうして……」
「謎の兵器の影響を無視できない……というわけですね」
敵の正体が判明したことは喜ばしいことだ。
しかし、兵器に関しての情報は得られないまま。
色々と難しい状況だな……
兵器の詳細が不明なせいで、どう対処するべきか道筋が見えてこない。
……というか。
この話、気軽に他人にしていいものではない。
間違いなく国家機密だろう。
それを俺にするということは……
「アルム君」
ライラがにっこりと笑う。
とても悪い笑みだ。
「これ、実は、誰にも話したらいけないって言われている情報なのよ」
「……でしょうね」
「でも、うっかりあなたに話してしまった……あら、残念。こうなったら、あなたを拘束しないといけないんだけど……さすがにそれは理不尽よね。だから、事件が解決するまでは同盟国にとどまってもらう、っていうところにしようと思うの」
そうやって俺を巻き込み、事件の解決を手伝わせようとする。
ライラらしい強引なやり方だ。
「はぁ……こんなことをしなくても、普通に話をすれば手伝います。こうされたのは、やや不快ではありますね」
「ごめんなさい。ただ、あなたには絶対に手伝ってもらないといけない、って思ったから」
「アルム殿がいれば百人力……いいえ。万人力なのでありますよ!」
「買いかぶりすぎですよ」
俺は、ただの執事だ。
主を支えることが仕事であり、それ以上の……テロリストの対処なんてできるわけがない。
……とはいえ。
このままテロリストを放置したら、もしかしたら、帝国が復活してしまうかもしれない。
そうなれば、再び王国は戦火に包まれるだろう。
そしてブリジット王女にも被害が……
そう考えると、手伝わないわけにはいかない。
「今現在、どのような状態まで対処の話を進めているのか……聞かせていただけますか?」
――――――――――
当然ではあるものの、アカネイア同盟国はベルカの要求を飲むわけにはいかない。
国が終わってしまう。
ベルカを捕縛。
あるいは討伐しなければいけないのだけど……
ただ、そこでネックになるのが謎の兵器の存在だ。
どういうものなのか?
ほとんどが謎に包まれている以上、迂闊に動くことはできない。
ベルカを始めとした『帝国軍』は、かつての革命で放棄された要塞に立てこもっているらしく……
そこに兵器もあるだろうとのこと。
故に、要塞に潜入して兵器の存在を確認。
その後、破壊することが決まった。
「……その大任を、まさか俺が任されてしまうなんて」
さすがにため息がこぼれてしまうのだった。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
再び新作を書いてみました。
『「パパうざい」と追放された聖騎士、辺境で新しい娘とのんびり暮らしたい』
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