27話 本当の決別
「……今、なんて?」
即答すると、リシテアは頬を引きつらせた。
彼女の考えていることはさっぱりわからないが……
妙な勘違いをされても困るため、きっぱり、はっきりと言う。
「君のところに戻るなんてありえない。イヤだ。絶対にない」
「なによ、それ! アルム、あんたはあたしのものなのに逆らうつもり!?」
「君のものになった覚えは一度もない。俺は、俺のものだ」
「……生意気よ」
ダンッ、とリシテアは地面を強く蹴る。
「生意気、生意気、生意気……!!! アルムのくせに生意気よっ!!!」
鋭く睨みつけてくるものの、もう彼女に恐怖を覚えることはない。
従う意味もない。
というか……
なんだか哀れに思えてきた。
なんでもかんでも自分の思うように物事が進んでいくに違いない。
自分の考えていることが正しく、他は全て間違い。
世界は自分を中心に動いている。
そう信じて疑わず、人を駒としてしか見ていない。
幼馴染の俺でさえも。
そんな彼女はとても滑稽で、哀れで……
かつての甘い感情が湧いてくることはない。
幼馴染としての情も消えた。
目の前にいるリシテアは、人の形をした『なにか』にしか見えない。
「リシテア、君は哀れだね」
「なんですって……?」
「君はなにも変わっていない。自分の気持ちを押しつけるだけで、相手のことをまったく考えない。心は一方通行だ。そんなことが続いたら誰にも愛されなくなる……いずれ、一人になるよ」
「なっ……!?」
「なんで相手のことを考えないんだ? ほんの少しでも理解しようとしないんだ? 少しでも寄り添うようなことをしていれば、それさえしていれば、俺は……」
リシテアの幼馴染でいられたのかもしれない。
今も君の隣に立つことができたのかもしれない。
かもしれない、を考えても仕方ないのだけど、でも、どうしても切なくて寂しくて、考えずにはいられなかった。
ああ、そうか。
俺はリシテアと決別したつもりで、しかし、彼女を捨てることができなかったみたいだ。
心のどこかで、もしかしたらまた、と考えていたのだろう。
「……でも」
もう終わりにしよう。
これ以上はダメだ。
俺のためにも……そして、彼女のためにも。
本当の意味で決別しないといけない。
「リシテア」
「な、なによ……」
俺の様子がいつもとまったく違うことに気づいたらしく、リシテアが怯んでいた。
そんな彼女をまっすぐに見て。
静かに告げる。
「俺はもう、過去を振り返らない。リシテアのことを気にかけることはない。改めてになるけど……俺とリシテアは他人だ」
「な、なによ……なにマジになっちゃっているのよ。どうせ、あたしのところに戻ってくるんでしょ? あんたなんか、他に行くところはないんだから」
「あるよ」
「え」
「俺の居場所はある。そして、それはリシテアの隣じゃない」
「そ、そんなこと……」
なぜかリシテアが動揺していた。
これは……あれだろうか?
自分のおもちゃが他人に取られると不快になるのと、似たような感じなのだろうか?
「俺と君は赤の他人だ。もう二度と関わらないでほしい」
「そ、それは……」
「それと、軍を引いてくれ。これ以上続けるのなら……君を殺す」
「ひっ!?」
本気の殺気をぶつけると、リシテアはその場に膝をついた。
「なによ、それ……あたしは……アルムは、あたしの……」
ぶつぶつと呟いている。
『物』である俺に拒絶されたことがよほどショックだったのだろう。
立ち上がれないでいた。
ざまあみろ、とか。
いい気味だ、とか。
そういう想いはない。
ただただ虚しい。
「リシテア、軍を引いてくれるな?」
「……イヤよ」
「リシテア、まだ……」
「あたしはっ!」
リシテアが立ち上がり、こちらを睨みつけてきた。
「このあたしが、そんな無様なこと、できるわけないでしょ!!!」
「……まだそんなことを」
「そもそも、アルム、あんたはあたしのものよ! あたしのものなのよ!? だから、あたしのところに……」
「ううん、違うよ」
振り返ると、ブリジット王女の姿があった。
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