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268話 すさまじいでありますね

「アルム殿は、すさまじいでありますね……」


 約三十分後。


 俺が援軍として参戦して。

 パルフェ王女に、フラウハイム王国の騎士達を一部、連れてきてもらい。

 そのおかげで、無事に魔物の掃討が完了した。


 すると、リセが少し呆けた感じで言う。


「自分達があれほど苦戦していた魔物の群れを、あれほどまでにあっさりと倒してみせるなんて」

「自分だけの力ではありませんよ。両国の騎士の力です」

「むぅ……自分の目には、アルム殿がなにかの冗談のように魔物をちぎっては投げてちぎっては投げていくところが見えていたのでありますが」

「多少、貢献はできたかもしれませんが」

「多少……? あれほどの活躍が多少だとしたら、多少の定義を見直さなくては……おっと、失礼いたしました。本当に現実離れした光景だったため、つい……いやはや。アルム殿の強さは知っていたつもりでありましたが、まだまだですな。底が知れませぬ」


 そこまで持ち上げられると、やや居心地が悪い。

 俺は、どこにでもいるような、ただの執事なのだけど……


「アルム殿がどこにでもいたら、色々な意味で国が崩壊してしまいそうですぞ」

「あれ? 自分、口に出していましたか?」

「言葉にしていませんが、顔に出ていましたから。ふふ。アルム殿の力はすさまじいですが、わかりやすいところもあり、そこは親しみやすく思うのでありますよ」

「むぅ……」


 喜ぶべきか、精進が足りていないと嘆くべきか。


 まあ、それは後でいいか。


 トラブルはあったものの、なんとかリセ達と合流することができた。

 魔物の襲撃を警戒しつつ先へ進む。


 そのおかげなのか。

 あるいは運がいいのか、魔物の襲撃を受けることはなくて……


 数日後。

 無事、アカネイア同盟国の首都にたどり着くことができた。


 ブリジット王女は、フェリス様のところへ。

 パルフェ王女は、ボクの柄じゃないんだよねー、なんて言っていたけど、ブリジット王女に引きずられるようにして連れて行かれた。


 うん。

 一応、王女なのだから、きちんと外交をしてほしい。


 そして俺は……




――――――――――




「久しぶり……かしら?」


 ライラの執務室に招かれていた。


 彼女と、もう一人……リセだ。

 どうやらリセは、アカネイア同盟国内ではライラの護衛、及び補佐を担当しているらしい。

 ただ力を持つ騎士というわけではなくて、知略を巡らせる軍師のような役も兼ねているようだった。


「お元気そうでなによりです」

「正直、あまり元気ではないわ。化粧でごまかしているけど、けっこう寝不足が続いているの」

「大丈夫ですか?」

「今のところはね。ただ、これ以上、トラブルが続くと本当に音を上げてしまいそうだから……そんなことにならないように、誰かの力を借りたいところね」

「……自分でよければ」


 俺だけこちらに呼ばれた理由をようやく理解できた。


 アカネイア同盟国は、未だ戦後処理が続いていて……

 そこに、負の遺産である兵器と謎の暗躍者。

 トラブルは耐えず、疲労が積み重なり、物事の処理のキャパシティーオーバーが発生しているのだろう。


「あら。前は誘いを断ったのに、今回は力を貸してくれるの?」


 ライラは、ちょっと意地悪をするように言う。


 革命を起こす際。

 自分のところに来てほしい、という話を断ったこと、根に持たれているのかもしれない。


「なにかあれば協力してほしいと、ブリジット王女から言われていますから」

「なるほど。この展開を見越していた……やっぱり、あの王女様は優秀ね。うちに欲しいくらい」

「……やめてくださいね?」

「ただの冗談よ。フェリス様も、負けず劣らず……というか、フェリス様の方がとても優秀だもの」


 その口調からは、フェリスに対する敬意と愛のようなものを感じた。

 ただ敬愛しているだけではなくて、心からの信頼を預けているのだろう。


 良い関係だ。

 俺とブリジット王女も、常にこうでありたいと思う。


「それで、本題はなんでしょうか?」


 俺だけをここに呼び出した理由。

 ただ仕事を手伝ってほしいのではなくて……

 もう一つの理由があるはずだ。

 でなければ、人目につかないようにするなど、回りくどい真似はしない。


「実は、今回の事件の犯人の居場所をだいたい掴んでいるの」

「……本当ですか?」

「100パーセント、とは断言はできないけどね。ただ、ほぼほぼ間違いないと睨んでいるわ」

「こちらが、その情報となるのでありますよ」


 リセからいくらかの書類を渡された。

 目を通すと、元帝国軍人達の情報。

 そして、潜伏先と思われるアジトの場所。


 すでに、ここまでの情報を掴んでいたのか。

 アカネイア同盟国の諜報能力はすさまじいな。


「しかし、ここまでの情報を掴んでいるのなら、どうして自分達が……?」

「……実はそれ、自力で掴んだ情報じゃないの」

「どういうことですか?」

「犯人からコンタクトがあったのよ」


 その一言で場の空気が緊張に包まれる。


「……それは、自分が聞いても?」

「ええ。そのために、わざわざあなただけを呼んだのだから」

「そこはよくわからないのですが……ブリジット王女とパルフェ王女には、その話はしないのですか?」

「もちろんするわ。今頃、フェリス様が話をしていると思う。ただ今は、アルム君にも明かせない情報があるの」


 なるほど。

 だから、俺は別のところで……ライラから話を、ということになっているのか。


 なかなか面倒なことになっているようだけど、いったい、なにが起きているのだろう?

 俺達は、どのような事態に立ち向かわないといけないのだろう?


 ……正直なところ、嫌な予感がした。


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こちらも読んでいただけたら嬉しいです。

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