表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

266/286

265話 出発前夜

 ブリジット王女と俺が同盟国に赴いて……

 そして、フラウハイム王国からいくらかの騎士を同盟国に派遣することが決定された。


 強奪された兵器の行方を探すため。


 危険は伴う。

 しかし、現地で活動することが最適解であり……

 危険よりも効率が重視されることに。


 執事としての腕の見せ所でもある。

 騎士の方々と連携して、ブリジット王女をしっかりと守らないといけない。


 ……通常、王女の身の安全を確保するのは執事の仕事ではないらしいが。

 まあ、それはそれ。

 俺にできることがあれば、なんでもやっていきたいと思う。


 そして……

 出発前夜。


「……」


 俺は自室を抜けて、城の中庭を一人、歩いていた。


 明日、アカネイア同盟国に向かう。

 そこは、今では名前を変えているのだけど……

 元は帝国。

 俺の故郷だ。


 もちろん、今でも故郷と思っていることはない。

 今の俺の故郷はフライハイム王国だ。

 生涯をこの国と、ブリジット王女に捧げるだろう。


 ……ただ。


「それでも、帝国が故郷だったという過去は変わらない……」


 もう関係ないと切り捨てたはずなのに。

 過去を振り切ったはずなのに。


 それでもまだ、複雑な感情が湧いてきてしまう。


 落ち着かないような。

 懐かしくなるような。

 苦々しく思うような。


 一言で表すことができない感情。

 そのせいで、なかなか眠ることができず、夜の散歩をすることに。


「アルム君」


 振り返ると、いつからそこにいたのか、優しい顔をしたブリジット王女が。


「ブリジット王女? どうされたんですか?」

「それは私のセリフだよ。こんな時間なのに、まだ起きているんだもん」

「それは……」

「眠れない?」

「そう……ですね」


 主に弱音を吐くわけにはいかない。


 ただ、ブリジット王女は身分も立場も関係なく、相手のことを思いやることができる人で……

 下手に隠し事をすると、後で怒られることもある。


「明日からのことを考えると、なかなか……」

「ふふ」

「ブリジット王女?」

「ごめんね。アルム君でも、そうやって緊張することがあるだな、って思うと、ちょっと親しみが湧いて。で、微笑ましい気持ちになって」


 母親的な視点なのだろうか?

 ちょっと複雑な気持ちだ。


 ブリジット王女は主であり、そういう観点から考えると、母親的な視点を抱いてもおかしくはないのかもしれないが……

 ただ、主であると同時に恋人でもあり……


 主に弱みを見せてはいけないと思うのだけど、恋人なら理解してほしいという……

 むぅ。

 本当に複雑だ。


「私があまり偉そうに言えたことじゃないんだけど……」

「はい、なんでしょう?」

「もっと悩むべきじゃないかな」


 意外な言葉が届けられて、ついつい目を丸くして驚いてしまう。


「故郷で事件が起きて、それを解決するために戻ることになった。ただ、その故郷では色々とあったから、簡単に感情の整理はできない……うん。ここはこうするべきだ、って簡単に決められないことだから。もっと悩んでいいと思うな」

「それは……」

「考えて考えて考えて……それで、答えを出せばいいと思うの。そうした方が、きっと心の整理もつきやすいと思うから」


 その通りかもしれない。


 帝国は捨てた。

 俺の新しい故郷はフラウハイム王国だ。


 ……そう思っていたのだけど、それは、簡単に割り切りすぎなのかもしれない。


 どれだけ思っていたとしても、俺が帝国で暮らしていた時間がなくなるわけじゃない。

 そこで得た経験や思い出がなくなるわけじゃない。


 切り捨てるのではなくて。

 向き合うべきなのかもしれない。


「ちょっと大変かもしれないけど……その時は、私を頼って。なにができるか、それはわからないけど……でも、隣で支えることはできると思うから」

「……ブリジット王女……」

「どう……かな?」


 少し不安そうに問いかけてくる。

 それに対して、俺は笑みを返した。


「ありがとうございます」


 俺は、本当にいい主に出会うことができた。


 それだけではなくて……


「ひゃっ!? あ、アルム君……?」


 あふれる気持ちが我慢できず、ブリジット王女を抱きしめた。


「少しだけ、いいかな?」

「えっと、えっと……うん」


 照れるブリジット王女がとても可愛い。


 今は、仕えるべき主ではなくて。

 愛しい恋人として接したい。


「……アルム君、温かいね」

「ブリジット王女こそ」

「もう少し、こうしていようか」

「ええ」


 そのまま、もう少しの間、二人の時間を過ごした。


 優しく、穏やかな時間で……

 ブリジット王女がいればなにも怖くないと、心を落ち着けて、そう思えることができた。

◆◇◆ お知らせ ◆◇◆

新作を書いてみました。


『悪役令嬢ものの悪役王子に転生してしまったので、改造コードを使ってバッドエンドを回避しようと思います』

https://ncode.syosetu.com/n1540kj/


こちらも読んでいただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇◆◇ 新作はじめました ◇◆◇
『追放された回復役、なぜか最前線で拳を振るいます』

――口の悪さで追放されたヒーラー。
でも実は、拳ひとつで魔物を吹き飛ばす最強だった!?

ざまぁ・スカッと・無双好きの方にオススメです!

https://ncode.syosetu.com/n8290ko/
― 新着の感想 ―
最近ブリジットやシロちゃん(ついでにパルフェ)の三王女に迫られてるからか、セラフィーやヒカリとの絡みが少なくなってる
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ