263話 事件と噂と兵器と
表に出ていないものの、アカネイア同盟国を束ねる者……フェリス。
その補佐を務めるライラと、護衛の騎士のリセ。
フラウハイム王国にやってきた彼女達は、わりと、とんでもない情報をもたらしてくれた。
「最悪の兵器……?」
いくらかの話を重ねて。
その後、フェリス様の口から語られたのは、とある兵器の話だった。
「悪いけど、詳細は知らないの。ただ、その兵器を所持するものは、どのような敵であれ打ち砕くことができる、って言われているわ」
「その兵器が何者かに強奪された……?」
「そういうこと」
ブリジット王女の問いかけに、フェリス様は淡々と頷いてみせた。
もっと焦るような問題なのだけど……
そのようなことをしても意味はないと、割り切っているのかもしれない。
「失礼。質問をよろしいですか?」
どうしても疑問に思い、口を挟む。
本来なら執事が口を挟めるようなことではないのだけど……
事前にブリジット王女から、なにか思ったことがあれば好きに話をしてもよい、と許可をもらっている。
本当に好きに話をするつもりはないのだけど……
ただ、聞き流せない疑問がある時は別だ。
「強奪の経緯や詳細の話をする前に、一つ、確認しておきたいのですが……」
「ええ、どうぞ」
フェリス様は特に不快そうな感情を見せるわけではなくて、耳を傾けてくれた。
器の広い人なのかもしれない。
「そのような兵器を、どうして今まで放置されていたのでしょう?」
「あー……そうよね、やっぱり、そこが気になるわよね」
大きなため息。
痛いところを突いてしまったようだ。
「そこは、あたし達の責任よ」
「と、いうと……」
「言い訳になるけど、帝国の闇って思っていたよりも深くて……革命後、色々と調査を進めていたんだけど、なかなかかつての暗部の全容を暴くことができなくて」
「なるほど……兵器の存在を知ったのも、つい最近、というわけなのですね?」
「そういうこと。あー……口にしておいて、これ、本当に情けない話ね」
フェリス様は眉を寄せて、難しい表情を作る。
本当なら彼女の責任ではない。
全ての元凶は帝国で……
彼女は後始末を任されただけ。
それでも、自分の責任と迷うことなく口にすることができる。
……こういう人は信用できそうだ。
「前々から噂は聞いていたの」
ライラ様が補足をする。
「とんでもない兵器が存在する、って。まだ帝国があった頃、私もそういう噂を聞いていたわ。でも、あくまでも噂は噂。そんな圧倒的なものがあるはずがないと……あるのなら、革命時に投入されているだろうと、あまり真剣に捉えていなかったのよ。責任は、私にもあるわ」
「あの……自分も、そういう噂を聞いたことがあります。しかし、噂だろうとまともに捉えることをせず……今思うと、とても恥ずかしく、無責任なことをしたと反省しております」
リセも援護をする。
フェリス様は、二人にとても慕われているのだろう。
ライラ様とリセに慕われている。
それだけで、フェリス様の人柄をそこそこ理解できたような気がした。
「なるほど……了解いたしました。不躾な質問に答えていただき、ありがとうございます」
「いいの、気にしていないわ。あなたの疑問はもっともだもの」
やれやれ、ともう一度ため息をこぼしてから、フェリス様は続ける。
「それで……情けない話だけど、今回の件、私達の手に余っていて……」
「ふんふん……王国に手を貸してほしい、っていうわけだね?」
「正解よ」
ちょっと苦い表情をしつつ、フェリス様は頷いた。
自分達だけで解決することができない。
そのことを大きな問題と捉えているようだ。
ただ、のんびり手をこまねいているわけにはいかない。
解決のために打てる手は全て打つ。
そう考えて、フラウハイム王国にやってきたのだろう。
「……うん。話は理解しました。ただ、少し話し合う時間をくれないかな? 内容が内容だから、私達だけで決めるわけにはいかなくて」
「ええ、それで問題ないわ。良い返事を期待しても?」
「もちろん」
フェリス様は不敵に笑い。
ブリジット王女も笑顔を見せる。
まだ協力関係を結んだわけではないのだけど……
この二人、気が合うのかもしれない。
すでに仲が良さそうだ。
「あなたも、握手をいいかしら?」
ふと、フェリス様がこちらを見た。
「ええ、もちろんです」
「よろしくね」
フェリス様と握手を交わして……
「ふふ♪」
なぜか、じーっと見つめられてしまう。
なんだろう?
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