259話 いつまでも隣に
「わぁ」
河川敷に到着すると、ブリジット王女は驚きに目を大きくした。
「いつも氾濫を起こしていた川が、こんなに綺麗に整備されたんだね」
「確認していなかったんですか?」
「えっと……忙しくて、つい」
仕方ないか。
実際にブリジット王女は忙しい。
問題ないという報告は確認しているだろうけど、実際に足を運ぶ時間は、なかなか作ることができない。
今日のデートも、色々と公務を前倒しでがんばったおかげで時間が確保できた。
「問題ないっていう報告は受けていたし、遠目からは確認していたんだけど……」
「実際に足を運ぶと、また受ける印象が違うかと」
「うん、そうだね。しっかりと補強されているから、もう氾濫を起こすことはなさそうだし、それに……」
くるりと周囲を見る。
川に沿うようにして道が伸びている。
その隣に花が植えられていて……
さらに、新緑が綺麗な木々が並んでいた。
「すごく良いところになったね」
「はい」
「これも、アルム君のおかげだね」
「俺は関係ないかと」
「大アリだよ。アルム君が計算ミスを教えてくれて、あと、事故が起きた時もみんなを助けてくれて……だからこそ、この『今』があるんだよ?」
この景色を作るのに、俺も一役買っていた、ということか。
光栄だ。
同時に、誇らしくもある。
「行こうか」
「はい」
――――――――――
「んーーーーー♪」
生クリームの上に、たっぷりと季節のフルーツが並べられたタルト。
それを口にしたブリジット王女は、子供のように目をキラキラと輝かせた。
「美味しいですか?」
「ん!」
こくこくと何度も頷いた。
心なしか、行動もちょっと幼くなっているような気がした。
お忍びだからなのかもしれない。
今は、王族という立場はひとまず忘れている状態で……
ブリジットという一人の女性。
だから、肩の力を抜いて。
のんびりと。
そして、柔らかい笑顔を浮かべることができているのだと思う。
普段から張り詰めて、余裕がないというわけではないと思うのだけど……
それでも、こういう時間は必要なのだろう。
「アルム君は紅茶だけでいいの?」
「はい、十分です」
「んー……」
ブリジット王女は少し考えて、おもむろにパフェをスプーンですくうと、こちらの口元に差し出してきた。
「はい、あーん」
「え?」
「あーん」
「えっと……」
「あーん」
「……」
こういう時のブリジット王女は、絶対に、一歩も退かないことを知っている。
俺は観念して口を開いた。
「……あむ」
ぱくりとスプーンを加える。
甘い生クリーム。
でも、しつこくなくて、ちょうどいいバランスだ。
そこにフルーツが加わり、とても美味しい。
「どう?
「美味しいです」
「ふふ、よかった。この美味しさをアルム君と分かち合いたかったんだ」
ブリジット王女は笑顔で言う。
「このパフェだけじゃなくて……これから色々なことがあると思うけど。楽しいことばかりじゃなくて、苦しいこともあると思うけど。でも、アルム君と一緒なら……って。そう思うの」
「それは……」
ともすれば、プロポーズに聞こえてしまうのだけど……?
……いや。
たぶん、そういう認識で間違いないのだろう。
さすがに、そのままストレートに言葉にするわけにはいかない。
そこに至るには、まだまだ色々な準備が足りていない。
ただ……
それくらいの想いを抱いていると、そう伝えたかったのだろう。
ならば俺は……
「そうですね」
そっとブリジット王女の手を取り……
その手の甲にキスをする。
「ふぁ……!?」
「俺の心は、いつもあなたの隣に」
「う、うん……」
「どうかしましたか?」
「だって……いきなり、ずるい……」
「さっきのブリジット王女の台詞も、なかなか卑怯かと」
「うー……」
赤くなるブリジット王女が愛しくて。
そして、改めてこの人の力になろうと決めて。
俺は、強く、強く想いを固めるのだった。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
別の新連載です。
『契約から始めるボーイ・ミーツ・ガール~親方、空からダークエルフの女の子が!~』
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