26話 敵陣突破
「で……戦況は?」
指揮所に設置されたベッドに寝転びつつ、リシテアは補佐にそう尋ねた。
「現在交戦中でして、情報の収集を……」
「は? まだ制圧していないの?」
「え」
「死ぬ気でやりなさい、って言ったわよね? なのにまだ制圧できていないっていうことは、死んでもいいってことよね? そうなのよね?」
「い、いえ、それは……」
「一人一人が死ぬ気で相手を殺す。ってか、実際に刺し違える。そうすれば勝てるでしょ?」
「そ、そんな無茶苦茶な……」
「ちっ」
リシテアは舌打ちをする。
どいつもこいつも使えない。
あの無能のアルム以下ではないか。
これじゃあ生きている価値なんてない。
帝国に戻ったらクビ……追放……
いや。
適当に罪を作り、処刑してしまおう。
「とはいえ……」
なぜか知らないが、最近の帝国は人材不足だ。
あちらこちらで人が足りないと文官や将軍達が嘆いている。
そんな中で軍人を全て処刑したら、さすがに大変になることはリシテアも理解していた。
だから、彼女は斜め上の解決法を考える。
「……そうね。人手不足なのは雑用をやる人がいないからなのよ。つまり、あの無能のせいね」
アルムに雑用を押しつけていたことを詫びるわけではなくて。
追放したことを後悔するわけでもなくて。
「決めた、アルムを連れ戻すわ。あいつ、あたしに惚れているだろうから、帰ってきていいと言えば泣いて喜ぶだろうし……ふふ、仕方ないわね。また使ってあげますか」
ひたすらに自己中心的な考えを示して、アルムをいいように利用することに対して、まったく罪悪感を抱かない。
それがリシテアという少女だった。
「そうと決まればさっそく……」
「皇女様!!!」
いつの間にか消えていた補佐が、いつの間にか戻ってきた。
「なによ、うるさいわね」
「お逃げください、敵がすぐそこに……」
「敵? なにを……きゃあああああっ!?」
瞬間、爆撃が指揮所を吹き飛ばした。
――――――――――
帝国軍の後衛も思うようにこちらの策にハマり、混乱状態に陥っていた。
これなら問題ないと味方に任せて、俺は敵陣を突破して、指揮所を爆撃する。
「火よ、我が意に従いその力を示せ。ファイアクリエイト!」
指揮所と思われる大きなテントが吹き飛んだ。
合わせて、周囲にいた護衛らしき帝国軍兵士達も吹き飛ぶ。
よし。
これで帝国軍の指揮系統は壊滅した。
ここからの逆転はありえない。
王国軍の勝利だ。
「いたたた……なによ、これ」
「え」
ひっくり返ったテントから、一人の女の子が這い出てきた。
忘れたくても忘れられない顔。
耳にこびりついて離れてくれない声。
それは……
「リシテア……?」
「アルム?」
――――――――――
どうしてこんなところにリシテアが?
まさか、今回の侵略はリシテアが考えた?
でも、そんなバカなこと、どうして?
あれこれと考えてしまい思考が停止してしまう。
その間にリシテアは立ち上がり……
「あら、殊勝な心がけね。自分から戻ってくるなんて、初めて褒めてあげてもいいと思ったわよ」
不敵に笑いつつ、意味のわからないことを言った。
「えっと……なんのことだ?」
「もう一度、あたしに仕えたいから戻ってきたんでしょう? わざわざこんなところまで追いかけてきたんでしょう? ふふんっ、その心がけは褒めてあげてもいいわ。グズのくせによくやったわ」
なにを言っているんだ、この女?
こんなところにいたのは謎だけど、その言動はもっと謎だ。
なにをしたいのか、なにを言いたいのかさっぱりわからない。
「さあ、あたしのところに戻ってきなさい。もう一度、あたしが飼ってあげるわ」
「断る」
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