256話 我が道を行く王女……だけど、情はありますよ?
「やぁ、よく来てくれたね」
パルフェ王女の私室兼研究室。
そこで俺は、笑顔のパルフェ王女に迎えられた。
やけに機嫌が良さそうだけど……
こういう時のパルフェ王女は、少し厄介だ。
「お茶でも飲むかい?」
「いえ、おかまいなく。というか、それならば俺が用意いたします」
「まあまあ。たまには、ぼくに接客されておくれよ。こういう機会でもないと、なかなかお茶を淹れることはないからね」
「しかし……」
「王女命令、っていうことで」
「……かしこまりました」
そう言われたら、執事である俺はなにもできない。
素直にお茶をいただくことにした。
意外というと失礼なのだけど……
パルフェ王女は、けっこう慣れた手つきでお茶を淹れてくれた。
「どうだい? そこそこ自信があるんだけど」
「はい、美味しいです」
お世辞抜きの感想だ。
手順に間違いはないし、しっかりと知識もあるらしく、一定以上の水準に仕上がっていた。
「ボクのお茶が美味しいこと、意外かい?」
「そのようなことは……」
「いいよ、いいよ。ボクも意外って思うからね。でも、アルム君をおもてなししようと、がんばって練習したのさ」
「ありがとうございます」
「それで……美味しいお茶の代金として聞きたいんだけど、シロに告白されたんだって?」
「ごほっ」
危ない。
お茶を吹き出すところだった。
「あはは、その反応は図星かな?」
「……黙秘します」
「してもいいけど、バレバレだよ?」
「ぐっ……」
この人は苦手かもしれない。
「まあまあ。別に、からかうわけに呼んだわけじゃない。このロリコン! って、なじるわけでもない」
「妙に迫力のある例えですね」
「ちょっとは思わないでもないからね」
「……」
「おや。そこで言い訳しないんだね。自分が好きになったのではなくて、シロの方から……って」
「どのようなものであれ、好意を向けていただけることは嬉しいことです。それを無碍に扱うようなことはしたくありません」
「へぇ」
パルフェ王女は感心したような笑顔になる。
「いいね。そういう態度は感心できる」
「それで……今日は、なんの用でしょうか? 仕事は終わらせているとはいえ、そうそう暇な身ではないのですが」
「用ならもう終わったよ」
「え?」
「今の話で終わり」
「……俺を見定めようとしていた、というわけですか」
パルフェ王女は、王国一の変わり者だ。
王族の義務? なにそれ。
そんなことよりも研究したい!
そんな困った方なのだけど……
ただ、情がないというわけではない。
家族は大事にする。
妹のことは可愛く想っている。
だからこそ、妹が惚れたという相手のことが気になったのだろう。
以前からの知り合いではあるものの、深くは知らない。
真に語り合ったこともない。
故に、このような場を設けた。
「結果はいかがでしょう?」
「言っただろう? 合格だよ、合格。キミなら、シロの婿になってもいいかな」
「親みたいですね」
「似たようなものかなー」
母親はいない。
そして父親は国王であり、時間はとれない。
とれたとしても、王として接することが当たり前になっていて、父親としての姿を見せることはなかなか難しい。
そんな複雑な関係。
だからこそ、パルフェ王女は姉としてではなくて、親としての役割も感じていたのだろう。
それは、たぶん、ブリジット王女も同じで……
シロ王女は本当に愛されている。
そんなことを感じるのだった。
「用が済んだというのなら、自分はこれで」
「えー、つまらないな。もっと語り合おう? それで、ちょっとボクの実験の手伝いをしておくれよ。なに、ちょっと寝ているだけでいいからさ。痛いことはちょっとだけ」
「シロ王女みたいなことを言わないでください」
初めて会った時、シロ王女も似たようなことを言っていた気がする。
似たもの姉妹だ。
俺は苦笑しつつ、外に出ようとして……
「あのさ」
パルフェ王女の声が背中にかかる。
「受ける受けないはともかく……あの子のこと、お願いね」
「オーダー、承りました」
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
新連載です。
『悪魔と花嫁に祝福を~初心者狩りに遭った冒険者だけど、悪魔に一目惚れされて溺愛されることになりました~』
https://ncode.syosetu.com/n8526kd/
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