255話 女は強し
「えっと……」
シロ王女の反応が思っていたものと違う。
ついつい呆気に取られてしまう。
シロ王女は不敵に笑い、言葉を紡ぐ。
「強がっている、っていうところは……うーん、ちょっとはあるよ? でもでも、ちょっとだけ。本当に、こうなるだろうな、って予想できていたの」
「そう……ですか」
それにしては、やけに落ち着いているような?
「こうなるだろうなあ、って思っていたから、もう心の準備はできているんだ。やっぱりかー、って思っただけ」
シロ王女の心は鋼鉄でできているのだろうか?
少なくとも、俺は無理だ。
ブリジット王女に告白した時、断られたとしたら、ショックで倒れてしまう自信がある。
「こうなる、って予想していたから……」
シロ王女は取り乱すことなく。
あくまでも冷静に……いや。
強気に。
そして、いつものように元気に言う。
「シロは、こう言うの……諦めてあげないよ、って」
「はい……はい?」
今、なんて?
「シロ、お兄ちゃんに振られちゃった。うん。残念」
「も、申しわけありません……?」
「だいじょーぶ! シロ、これくらいでめげないし、諦めないから!
「えっと……それは、どういう?」
「言葉の通りだよ? シロは、これからもお兄ちゃんのことを好きでいるの」
「……」
諦めないとは、言葉通りの意味なのか。
俺にはない発想に、ついついぽかーんとしてしまう。
「今は振られちゃった。でも、この先もずっと同じ、っていうのは言い切れないよね?」
「それは……」
その通りかもしれない。
人の心は変わるもの。
今はダメだとしても、この先は違うものに変化するかもしれない。
シロ王女は、断れることを前提に告白をして……
しかし、諦めないという。
それはつまり……
「今回の告白は、シロなりの決意というか、気持ちを知ってほしかったというか……うん。せんせんふこく、なの!」
「……」
恋の宣戦布告。
シロ王女は、えっへん、と胸を張り言う。
まさか、こんな展開になるなんて……
誰が想像できるだろうか?
王女とはいえ、シロ王女はまだ幼い。
それなのに、ここまでのことを考えて、本当に実行してしまうなんて……
「……はは」
ついつい笑みがこぼれてしまう。
敵わない。
完敗だ。
シロ王女は強い。
いや。
女性が強いのだろうな。
男では、なかなかこういう発想を抱くことはできない。
プライドが邪魔をして、振られた相手に何度も繰り返しアプローチする、なんていうのは難しい。
もちろん、それを可能とする人もいるが……
たぶん、少数だろう。
少なくとも俺は無理だ。
事実、ブリジット王女に告白した時は、失敗したら執事を辞める覚悟さえしていた。
「今はダメだとしても、この先、ぜーーーったいシロを好きになってもらうんだからね♪ 勝負だよ、お兄ちゃん」
「……かしこまりました。その勝負、お受けします」
全てシロ王女の思惑通りに進んでいた。
勝負を受けることになったけれど……
これは、勝てないかもしれないな。
もはや苦笑するしかないのだった。
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
新連載です。
『悪魔と花嫁に祝福を~初心者狩りに遭った冒険者だけど、悪魔に一目惚れされて溺愛されることになりました~』
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