250話 完全の本気
お兄ちゃんは、とても優しい人。
それだけじゃなくて、すごい人。
執事だけど、でも、執事じゃないみたいで……
とんでもない能力を持つ人だ。
お姉様の専属になったことで知り合い、その仕事ぶりを間近で見てきた。
すごい、の一言に尽きる。
なんでもできて。
完璧にこなすことができる。
だからシロは、お兄ちゃんのことをもっと知りたいと思った。
好奇心と興味は好意に変わった。
……と、思っていた。
今になって考えてみると、シロのそれは、ただの憧れ。
恋愛感情とは違う。
シロはまだ子供だったから。
深く考えていなかったから。
だからそれは、『恋』ではなかったのだと思う。
「でも……」
今は違う。
お兄ちゃんと一緒にいると、胸がぽかぽかと温かくなる。
名前を呼んでもらえると、にへら、という笑顔になってしまう。
自然とお兄ちゃんのことを目で追いかけて、その隣にいたいと思う。
「うん」
今なら、ハッキリと言うことができる。
迷うことはない。
考えることもない。
「シロは……お兄ちゃんが好き」
シロは王女で、普通の人と同じような恋は難しくて。
そもそも、お兄ちゃんはすでにお姉様と付き合っていて。
報われない恋になるかもしれないけど、でも、この気持ちを止めることはできない。
隠すこともごまかすこともできない。
「だってだって、仕方ないよね?」
好きなんだもん。
どうしようもない。
真面目にならないと、とか。
悪いことをしたらいけない、とか。
そういうところは、ある程度、コントロールできる。
自分の意思でなんとかなるところだ。
でも、恋は無理。
一度落ちてしまったら、もうどうしようもない。
好きで、好きで、好きで……
その人のことしか考えられなくて。
忘れようとしても。
ストップしようとしても、でも、気がついたら自然と頭に思い浮かべている。
なんて厄介。
でも……
嬉しいところもあって。
ニヤニヤしちゃうところもあって。
「えへへ。シロ、お兄ちゃんが初恋の人でよかった♪」
初恋は叶わない、なんて言われることが多い。
事実、お兄ちゃんはすでにお姉様とお付き合いしている。
シロが入り込む余地はないのかもしれない。
そもそも、シロはたぶん、妹のようにしか見られていないはず。
「でも!」
諦めたくない。
がんばる!
いつかの時と同じ。
どうしようもないと諦めていたら、なにも変わらない。
前に進むだけ。
ぐんぐん、ずんずん進んでいくだけ。
「よーし、がんばるぞー!」
えいえいおー! と、私は拳を突き上げるのだった。