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249話 仕事がおわらなーーーい

 数日後。


「ブリジット王女、こちらの書類も確認をお願いします」

「ひぃぃぃーーーーーん」


 ブリジット王女の執務室。


 俺は、いつものようにブリジット王女の専属に戻っていた。

 彼女の補佐をして、支える日々に戻る。


 いつもの日常だ。


 ただ、ブリジット王女はいつも通りというわけにはいかなかった。


 シロ王女の件で、ヘイムダル法国が……というよりは、第一王子であるエルトシャンが暴走した。

 歴史上、類を見ないほどの大暴走。


 一個人を狙い、そのためならば国家間の戦争も辞さない。

 無茶苦茶すぎる。

 王族のすることではなくて、そこらの盗賊でもやらないような愚行だ。


 対する俺は、エルトシャン王子の暴走を止めるため、思い切り殴りつけた。

 いかな事情があるとはいえ、一国の王子を気絶するほどに殴り飛ばしたことは、まずい。


 まずいのだけど……

 それ以上にまずいことをやらかしたのが、エルトシャン王子だ。

 今回の一件が公になれば、周辺国家からの糾弾は免れない。

 下手をしたら外交問題に発展して、経済制裁を受けてしまう。


 なんとしてもそれだけは避けたいヘイムダル法国は、徹底的に謝罪した。

 全面的に非を認め、そして、エルトシャン王子を廃嫡……辺境で軟禁することに。


 エルトシャン王子を贄に問題を収める。

 あまり褒められた方法ではないのだけど……

 とはいえ、エルトシャン王子の暴走が事の発端なのだから、自然な帰結とも言えた。


 当初、ゴルドフィア王は逆に戦争を仕掛けるほどに怒り狂っていたのだけど……

 ヘイムダル法国が徹底的に下に出ることで、どうにか怒りは鎮火。

 賠償請求することで事を収めることに。


 それから色々な話し合いが行われていて……

 そのしわ寄せがブリジット王女に来ている、というわけだ。


「片付けても片付けても仕事が終わらないよーーー!?」

「がんばりましょう」

「がんばる! がんばるよ!? ただ、アルム君が全力で手伝ってくれているのに、それでも仕事が終わるどころか増えていくようなこの状況は、さすがにおかしいと思うの!?」

「問題ありません。今回は、おそらく、五徹ほどすれば収まるでしょう」

「死んじゃう!?」

「懐かしいですね。この忙しさ、帝国にいた頃を思い出します」

「よくわからなくて、まったく共感できないブラックな思い出の振り返りをしないで!?」

「がんばりましょう。仕事ですから」

「うぅ、おかしいなぁ……うち、ホワイト国家のはずなんだけどなぁ……」


 ブリジット王女はしくしくと泣きつつ、それでもペンを走らせる手は止めない。

 なんだかんだ、仕事はしっかりと取り組んでいた。


 そんな彼女の負担を少しでも減らせるように、俺もがんばらないといけないな。


 というか、俺にも原因があるわけで……

 できる限りのことをしないと。


 本気の中の本気。

 いつも以上に集中して、ブリジット王女の補佐を務めていく。


 ……と、そんなある時。


「失礼します」


 シロ王女がやってきた。

 どことなく緊張した様子だけど、どうしたのだろう?


「シロちゃん? なにか用? ちょっと今、手が離せなくて……」

「えっと……お兄ちゃんに」

「俺ですか?」

「今、ちょっとだけいいかな?」


 ブリジット王女を見ると、こくりと頷かれた。


「どうかしましたか?」

「えっと……ね。その……まだ、ちゃんとお礼を言っていなかったな、って」

「もう何度も聞いたような気がしますが」


 王国に帰る途中も、何度も何度もありがとうと言われていた。


「でもでも、シロは、もっともっとお兄ちゃんにありがとうをしたいの!」

「そうですか。その気持ち、ありがたくいただきます」

「むー、そうじゃなくて……シロは、ものすごーーーくありがとうをしたいの」

「?」

「えっと……お兄ちゃん、ちょっとかがんで?」

「こうですか?」

「……ちゅ……」


 頬に触れる柔らかい感触。


「っ!?」


 それと、ブリジット王女がガタンと席を立つ音。


「えへへ、しちゃった♪」

「えっと……」

「ありがとう、お兄ちゃん。それと……今まで以上に、もっともっともーーーーーっと、大好きだよ♪」

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