25話 壊滅
「はぁ!? 前衛が壊滅したぁ!?」
帝国軍後衛……さらにその奥にある指揮所にいるリシテアは、部下がもたらした報告に大きな声をあげて驚いた。
小さな村を攻め落とすだけの楽な戦いだったはずだ。
村を守る自警団がいるだろう。
もしかしたら、王国軍も滞在しているかもしれない。
しかし、今回は奇襲を仕掛けたのだ。
敵が守りを固めるヒマなんてなかったはず。
500の軍からの攻撃を守ることはできないはず。
それなのに壊滅したなんて……
「……なんて無能なのかしら!!!」
バキリと、リシテアは手に持っていた扇を折る。
「どいつもこいつも……ああもうっ、本当に役に立たないわね!」
「お、皇女様、我々はどうすれば……」
「突撃なさい」
「え?」
「聞こえなかったの? 突撃よ」
リシテアは折れた扇を捨てて、補佐を睨みつける。
「残りの500で突撃しなさい」
「し、しかし、魔物や王国軍が……それに罠も」
「そんなもの関係ないわ。数で圧倒しなさい。全て踏み潰すのよ」
「そのようなことをすれば、我が軍も大きな被害を……」
「だから?」
リシテアは冷たく返した。
氷のような視線を補佐にぶつけつつ、迷うことなく言い放つ。
「あんた達の命なんてゴミカスに等しいの。そんなもの、気にしても仕方ないでしょう?」
「……ぅ……」
「皇女である私の命令は絶対よ。残りの500で、絶対に村を落としなさい。村人にはなにをしても構わないわ。ただし、ワインは傷つけないように」
「し、しかし、後衛を突撃させるとここの守りが……」
「うるさいわねっ!」
「ひぃ!?」
リシテアは近くに置かれていた小瓶を投げつけた。
小瓶が割れて、中に入っていたポーションが散る。
「後衛で敵をぜーんぶ叩き潰せば問題ないでしょう? なんでそんな簡単なことがわからないの? バカなの? というか、あたしの命令に疑問を唱えるとか、笑えるんだけど。あんたは、黙ってあたしの言うことを聞いていればいいの。わかった?」
「は、はい……」
「なら、行きなさい。死ぬ気で敵を倒してきなさい。でないと、あたしが殺すわ」
――――――――――
「アニキ、敵の無力化、完了いたしました!」
「ありがとうございます」
策がうまくハマり、500の帝国軍を蹴散らすことができた。
一人ずつ丁寧に捕縛している時間はない。
狩りで使う網とトリモチを被せて、雑ではあるが動けないようにしておいた。
「アニキ、次はどうしやすか!?」
「アニキ!」
「えっと……その前に、そのアニキっていうのやめてくれません?」
元帝国軍で、今は新しい王国軍の兵士達は目をキラキラさせて言う。
俺のことはアニキ。
ブリジット王女のことは姉御。
妙な慕われ方をされてしまったみたいだ。
「前衛がやられたことで、敵は警戒を強くするでしょう。普通に考えて、次の策を考えるために防備を固めるはず。その間に、こちらも体勢を整えて……」
「敵、こちらに突撃してきます!」
「えっ」
慌てて村に繋がる道を見ると、土煙があがっているのが見えた。
それは、後衛500の兵士が突撃することで起きているものだ。
「ここで突撃をするとか……バカなのか?」
ついつい、そんな感想を抱いてしまう。
こちらの策はまだ生きている。
無策で突撃すれば同じことを繰り返すだけ。
それとも、この短時間で新しい戦術を組み立てて、こちらの策を突破する自信がある……?
「……いや、それはないか」
見た感じ、単純に突撃をしているだけだ。
なにも考えていないように見える。
「ふむ?」
よく見てみると、敵は必死の形相だ。
数は圧倒的に上のはずなのに、悲壮感が漂いまくっている。
まるで、敵陣に死神が現れて、それから逃げているかのようだ。
「敵の表情が気になりますね」
「表情……ですか? えっと、どのような顔を? 自分は見えず……」
「あれ、見えないんですか?」
「見えませんよ。まだ、キロ単位で離れていますからね? それが見えるなんて、無茶苦茶な視力は持っていません。まあ、アニキなら別でしょうけど」
「人を化け物みたいに言わないでください。俺は普通の人間ですよ」
「普通……ですか」
「目が良いとしたら、それは執事だからでしょうね。主のために、視力を鍛えることも時に必要になりますから」
「執事の万能感、すげえっす。俺もアニキみたいになれますかね?」
「なれますよ。志を抱いた時から、すでにその人は執事ですからね」
「いえ、その……俺は執事ではなくて、アニキのような強い人に……まあ、いいです」
なにを言いたいのだろう?
「それで……アニキ、これからどうしましょう?」
「……蹴散らすことに変わりありません。ただ」
「ただ?」
「ここ、少し任せていいですか?」
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