表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

244/334

243話 主のために

「悪いが、そのような話、俺は理解できないな」


 突然、小屋に第三者の声が響いた。


 エルトシャンと、その護衛の兵士達が慌てて振り返る。


 いつからそこにいたのか?

 アルム・アステニア……フライハイム王国第一王女ブリジット・スタイン・フラウハイムの専属の執事の姿がそこにあった。




――――――――――




「むぅ!?」


 両手足を縛られて、床に転がされているシロ王女がびたんびたんと跳ねた。

 エビみたいだ。


 普通の民家よりも一回り狭い小さな小屋。

 暖炉と小さな棚はあるものの、それ以外の家具はない。


 中央に、シロ王女とエルトシャン王子。

 部屋の端に、護衛らしき兵士が五人。

 いずれも、鎧にヘイムダル法国の紋章が刻まれていた。


 隠す気はない、ということか?


 いや。

 隠す必要がない。

 絶対に見つからない自信があったのだろう。


「おやおや。これは、思わぬ来客だ」


 兵士達は、「何者だ!?」とか「うろたえるな!」とか慌てていたが……

 エルトシャン王子は落ち着いたものだ。


 街中で散歩をしていたら偶然出会った。

 そんな感じで、気軽に声をかけてくる。


「キミは確か、ブリジット王女の執事だったね? このようなところで、どうしたんだい?」

「それは、こちらの台詞だ」


 ちらりと、シロ王女を見る。


「シロ王女をどうするつもりだ?」

「どうもこうも、彼女は僕の妻となる人だ。だから、連れて帰る。ほら、単純な話だろう?」

「そのような話、王国は認めた覚えがない」

「王国なんかに認めてもらう必要はないさ。僕は、欲しいから貰う……それだけだからね」


 この男は……


 無邪気な顔をして、子供のようなことを言う。

 ただ、冗談の類ではなくて、本気であることが伺えた。


 欲しいから奪う。

 犯罪だとしても関係ない。

 両国の関係がこじれることになったとしても、やはり関係ない。


 この男の根底にあるものは、徹底的な自己中心的な思考。

 自分さえよければいい。

 自分の願いを叶えるために、他を踏みにじることになろうとも、やはり関係ない。


 以前、ヘイムダル法国を訪れた時は気がつかなかったけれど……

 なんていう邪悪な存在だ。

 ある意味で、リシテアを凌駕する。


「とはいえ、ちょっと気になるなあ。ここ、僕と、他ごく一部の人しか知らない場所なんだけど、どうしてキミは追いかけてくることができたのかな?」

「……シロ王女が、最近、新型の魔石を開発したことは知っているな?」


 隠しておくことでもない。

 それに、状況を把握、相手を観察するための時間が欲しいので、話に付き合うことにした。


「もちろん、知っているさ。それがきっかけで、僕はシロ王女に目をつけたわけだからね」

「新型の魔石は厳重に保管されることになったが、その一部はシロ王女が身につけている。さらなる改良をしたいから、という理由と、お守り代わりになるかも、という理由だ」

「なるほど……うん、なんとなく理解できた。つまりキミは、新型の魔石が放つ波動を追いかけて来たんだね? そんなこと、普通は不可能だけど……たぶん、シロ王女が開発したのかな?」

「正解だ」


 新型の魔石の有用性は非常に高く……

 悪用目的で盗まれた時のことを考えて、探知できる道具をシロ王女が開発していた。


 今回はそれを使い、シロ王女の居場所を突き止めた、というわけだ。


 王城から遠く離れた場所。

 そこに、あるはずのない新型の魔石の反応があれば、シロ王女以外ありえない。


「すぐに応援がやってくる。おとなしく投降しろ。ヘイムダル法国の王子とはいえ、今回の暴挙はとても見逃すことはできない」

「それは嘘だね」


 エルトシャン王子は、即座に言う。


「応援? ありえないさ。フラウハイム王国の王城からここまで、どれだけの距離があると思っているんだい? キミは強そうだから、一気に駆け抜けてくることができただろうけど……他の普通の兵士なんかは、すぐにやってくることは、まず不可能だね」

「……」

「それに、ここは一応、ヘイムダルの国内に位置する。シロ王女がいるという確信、及び客観的な証拠があれば踏み込むことは可能だけど、そんなものはないだろう? 簡単に足を踏み入れることはできない。手続きに数日はかかるだろね」


 全部、読まれているか。

 頭の回転がとても速い。


 ……厄介だな。


 なるべく穏便に、と考えてはいたが……

 この様子だと、真正面からの突破は無理だ。

 力付くの解決になるかもしれない。


 まあ……


「おや? 急に怖い顔になったね」

「ふざけた真似をしてくれたからな」


 力付くになったとしても、それはそれで問題ない。


 ブリジット王女を悲しませて。

 パルフェ王女やゴルドフィア王に心配をかけて。

 他のみんなも……


 そのようなことを引き起こした元凶を許すつもりはない。

 二度とふざけたことができないように、ここで徹底的に……叩く!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
◇◆◇ 新作はじめました ◇◆◇
『追放された回復役、なぜか最前線で拳を振るいます』

――口の悪さで追放されたヒーラー。
でも実は、拳ひとつで魔物を吹き飛ばす最強だった!?

ざまぁ・スカッと・無双好きの方にオススメです!

https://ncode.syosetu.com/n8290ko/
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ