241話 消えた第三王女
シロ王女への求婚に対して、フラウハイム王国としての正式な返事をして。
使者を丁寧に見送り。
ヘイムダル法国が、なにかしら動きを見せることはない。
ひとまずの平穏を得たと思ったのだけど……
数日後。
シロ王女の姿が忽然と消えてしまうという事件が起きた。
「ダメっす……城内、城下、共に徹底的に探したっすけど、見つけられなかったっす」
「わりぃな……あたしも同じだ」
俺は、ブリジット王女の執務室でヒカリとセラフィーの報告を受けていた。
二人ならシロ王女を見つけられるかもしれない。
そう思い、徹底的な調査をお願いしたのだけど……
結果は空振りだ。
「……」
同じく報告を聞いていたブリジット王女は険しい表情だ。
ただ、その奥にとある感情が隠されているのがわかる。
「ひとまず、二人は休んでほしい」
「でもアニキ……!」
「またなにかお願いすると思う。その時のために」
「……はいっす」
「あまり気負うなよ?」
ヒカリとセラフィーは、こちらを心配するように何度か振り返りつつ、執務室を後にした。
俺とブリジット王女の二人が残される。
「……シロちゃん、大丈夫かな」
ぽつりと、そんな不安の言葉がブリジット王女の口からこぼれた。
王女として。
王族として。
人前では、決して弱音を吐くことはなかったのだけど……
俺に対しては心の弱いところを見せてくれている。
そこが愛しい。
ただ、今は愛を語っている場合じゃない。
「……可能性があるとしたら、ヘイムダル法国。いや……エルトシャン王子でしょうか」
「誘拐された……?」
「わかりません。ヒカリやセラフィーの警護を掻い潜ることは難しく……まるで騒ぎにならないというのは、少し考えられません」
ヒカリは、元最強の暗殺者。
セラフィーは、現役で最強の傭兵。
そんな二人を出し抜くことができる?
不可能だ。
なら、答えは……
「もしかしたら、ですけど」
「うん」
「シロ王女は、あえて敵の誘いに乗ったのかもしれません」
「え? それって……」
シロ王女は、執拗なまでに狙われていた。
ヒカリやセラフィーが警護についていたとしても、簡単に諦めることはないだろう。
あれからも、何度も狙われていたに違いない。
そんな状況をなんとかするために、シロ王女は、あえて敵にさらわれた……とか。
そう考えると、ヒカリとセラフィーが気づかなくて、忽然と姿が消えてしまったことも納得できる。
「で、でも、いくらなんでもそれは……シロちゃんはまだ幼いけど、でも、王女としての教育をしっかりと受けている。すごく賢い子だよ? そんなシロちゃんが、わざわざさらわれるなんて……」
「敵の目的、正体を探るため……それと、断れない状況にあったのかもしれません」
「それは……まさか」
「人質をとればいい」
シロ王女を脅すのは、わりと簡単だ。
おとなしく言うことを聞かなければ国に害が及ぶ。
そう脅せばいい。
王女ならば、そのような脅しを出されたとしても、従ってはいけない。
自身がさらわれることで、より大きな影響が出てしまうかもしれない。
国に害が及んだとしても、耐えて、堪えて……要求を跳ね除けなければいけない。
しかし、それは理屈の話だ。
感情を無視している。
ブリジット王女もシロ王女も、。民に寄り添うことを一番と考えている。
だから、国に害が及ぶと脅されたりしたら、見捨てることはできないだろう。
それが、王族としては落第点の行為だとしても、自分の身を捧げるしかないだろう。
王族として見るならば、落第点だ。
しかし、俺は、そんな人のことを誇らしく思う。
「……シロちゃん……」
ブリジット王女は泣きそうな顔に。
そんな彼女を抱きしめた。
「アルム君……?」」
「安心してください。シロ王女は、必ず助けてみせます」
「でも……」
「絶対です。約束します」
「……アルム君……」
「だから、俺を信じて、待っていてくれませんか?」
「……うん。シロちゃんを、お願い」
俺はブリジット王女から離れて、その前に膝をついた。
「オーダー、承りました」
だいたい落ち着いてきたので、今日から通常更新に戻します。
ご迷惑をおかけしました><