239話 求婚されちゃいました
……この日、フラウハイム王国の一部の者は大騒ぎだった。
というのも、ヘイムダル法国のエルトシャン王子からの使者がやってきて……
なんと、エルトシャン王子がシロ王女に求婚したという。
なにか仕掛けてくるかもしれない、とは思っていたが……
まさか、このような方法を選ぶとは。
事情を知る者は驚きで混乱して。
俺も、少しの間、呆けてしまうほどだった。
いったい、エルトシャン王子はなにを目的としているのだろう?
――――――――――
「シロ王女は聡明であり、また、本当の意味で賢い。優しい人柄で、民のために尽くすことができる立派な王族と聞いている。そのような利発な女性こそ妻にふさわしく、また、僕も彼女にふさわしい人間であろうと努力させられてしまう。
ややくどく感じるかもしれないが、これが僕……エルトシャン・グラ・ヘイムダルの嘘偽りのない想いだ。故に、シロ王女を妻に迎えたい。
個人的な感情を抜きにしても、婚約が成立すれば、ヘイムダルとフラウハイムは良好な関係を築くことができるだろう。これを機に、共に肩を並べて、笑顔を浮かべていられるような、そんな関係に発展したいと思う。
色よい返事を期待している……
っていう感じの内容だね」
ブリジット王女の執務室。
そこで、ブリジット王女が求婚の内容を簡単に説明してくれた。
ここにいるメンバーは、俺とブリジット王女。
ゴルドフィア王とパルフェ王女。
それと、ヒカリ。
シロ王女は当事者ではあるものの、内容が内容だけに動揺や混乱を与えてしまうかもしれず、今は伏せられていた。
「アルムよ」
ゴルドフィア王が硬い声で言う。
「はい」
「戦の準備をしろ」
「は……はい?」
「儂の可愛い可愛いシロに手を出そうとするとは……許せぬ! その身、百を超えるほどに細切れにして、百年先まで後悔させてやろうではないか!!!」
「はぁ……」
本気か?
……本気なのだろうな。
「お父様、落ち着いて」
「ぐぉ!?」
ブリジット王女は、とても冷静にゴルドフィア王の頭を分厚い辞書で殴りつけた。
かなり鈍い音がしたのだけど、王は大丈夫だろうか……?
寝てしまったかのように、ピクリとも動かないのだけど。
ブリジット王女も他の人もまるで気にせず、話を続ける。
「父さんを支持するわけじゃないけど、どうかなー、って思う話だね」
「ボクも同意っす! シロ王女と結婚とか、まだまだ早いっす!」
「そこは私も同じ考えなんだけど……」
ブリジット王女はため息をこぼす。
頭が痛い、という感じだ。
頭痛の原因は、もちろん求婚の件。
「エルトシャン王子は、外交ルートを通じて……まあ、色々と理由をつけて、シロちゃんと婚約することが両国にとって最善の道、っていうことを示しているの。おかげで、そこそこの数の人が賛成しているわ」
「厄介だね……まずは外から、っていう感じかな?」
「たぶんね」
シロ王女と直接話をしても、頷いてもらうことはできない。
なら、頷かざるをえない状況を作り上げる。
エルトシャン王子がそこまで考えているのか、それは不明ではあるが……
彼の求婚を良い機会と考える人が少しずつ増えていた。
「彼はなにを考えているのかしら?」
「シロ王女に惚れたんじゃないっすか?」
「うーん……ヘイムダル法国も参加するパーティーは、過去、何度か開いているし、外遊で訪れたこともあるから、そこでシロちゃんを見て一目惚れ、っていう線はなくはないんだけど……」
「このタイミングっていうのが気になるね。普通に考えるなら、シロよりも、シロが開発した新型の魔石狙いだよ」
「なるほど……ロリコンじゃなくて、技術狙いっすか」
「「ロリコンであることに変わりはないと思う」」
二人から辛辣な意見が。
まだ幼いシロ王女に求婚しているため、擁護のしようがない。
「結局、どうするんだい?」
「……外野があれこれと考えても仕方ない、か」
ブリジット王女は吐息をこぼした。
「シロちゃんにも話をしましょう」