238話 息抜きはスイーツと共に
「わぁーーー♪」
街に出ると、シロ王女は目をキラキラと輝かせた。
ここ最近、襲撃を警戒して外出は許されていなかった。
街だけではなくて、中庭などに出ることも控えるようになっていた。
だからこそ、今、街に出れたことが嬉しいのだろう。
「ねえねえ、お兄ちゃん。今日は、なにをしてもいいの?」
「ええ、お供します」
「やったー!」
脅威は去っていないのだけど……
しかし、このままだと、ストレスで先に潰れてしまうかもしれない。
そう判断しての行動だ。
ヒカリと、その部下がいる。
そして俺がいる。
シロ王女は絶対に守る。
「えっと、えっと……じゃあ、まずはあそこから!」
「はい、お供します」
――――――――――
服を見て、雑貨を見て。
それから、シロ王女の大好きな魔道具の部品を見て。
一通り街を見て回ったところで、ブリジット王女が常連として通うレストランに移動した。
「ふぁあああああ♪」
テーブルの上に、シロ王女の顔よりも大きなパフェが置かれた。
ものすごく嬉しそうな顔だ。
「こ、これ、シロ一人で食べていいの? 後でご飯を食べられなくなっちゃいそうだけど、怒られない?」
「大丈夫ですよ。話は通しておきましたから、今日は特別です」
「やったー! いただきます!」
シロ王女は満面の笑みでパフェを食べ始めた。
スプーンを突き刺すようにして、ぱくぱくと口に運んでいく。
すぐにクリームで口元がべとべとに。
溶けたアイスが垂れて、手も汚れてしまう。
ここに礼儀作法の講師がいたら、とんでもないことになっていただろうが……
「まあ、今日はいいか」
息抜きのための時間だ。
それなのに礼儀やら作法やら注意していたら、本来の目的を見失ってしまう。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん」
「はい?」
「あーん♪」
シロ王女はアイスをスプーンですくい、こちらの口元に差し出してきた。
「えっと……?」
「お兄ちゃんにもあげる。シロだけ食べるのは、悪いから」
「いえ。自分は紅茶をいただいていますから」
「でもでも、お兄ちゃんも、この美味しさを感じてほしいな。で、一緒に美味しいものを食べたら、シロも嬉しいの」
「……わかりました」
素直にいただくことにした。
ぱくりと食べると、クリームの甘味とアイスの冷たさ。
それと、フルーツの爽やかさが口に広がる。
「どうどう? 美味しいでしょ?」
「はい、とても」
「えへへー、そうだよね。美味しいよね」
「ここを勧めていただいたブリジット王女に感謝ですね」
「むー、お姉ちゃんの話……」
「どうかしましたか?」
「どうかしました!」
むす、っとシロ王女が不機嫌そうに。
「お兄ちゃんは今、シロと一緒にいるの!」
「はい、それはもちろん」
「なら、他の女の話をしたらダメ」
「えっと……」
恋愛に疎い俺でも、そういう女性の心の機微は理解できる。
できるのだけど……
シロ王女がそういうことを気にする年頃というのは驚きだ。
あと、姉が相手でも嫉妬してしまうものらしい。
「今は、シロだけを見てほしいな」
「……はい、わかりました」
「本当?」
「本当です」
「なら、シロって呼んで」
「それは……」
「むー……」
「……シロ……」
「えへへー♪」
一転してごきげんに。
「お兄ちゃんに名前で呼んでもらうと、にやにやーってなっちゃう」
「今回限りにしていただけると……」
「えー、なんで? もっともっと呼んでほしいのに」
「さすがに、そういうわけには……」
「むー」
再びむくれてしまう。
「なら、二人の時ならいいよね?」
「それなら……はい」
「うん、約束。また今度、シロって名前で呼んでね♪」
再びシロ王女はごきげんだ。
花が咲いたような笑顔を浮かべている。
この笑顔を守りたい。
相手がなんであれ。
一国の王子だとしても。
シロ王女に手を出すのなら容赦しない。
そう決意を新たにした。
次の更新は1月6日となります。
詳細は活動報告にて。