235話 闇
隠し通路を抜けた先は工場だった。
複数のラインが設置されていて、たくさんの人が働いている。
そこで作られているものは……魔石だ。
人工の魔石。
とはいえ、シロ王女が開発した新型魔石とは違うタイプだ。
見た目が悪く、大した力も感じられない。
一般に流通している魔石だろう。
それを開発することは問題ない。
国際上のルールにも反していない。
ただ……
「量が異常だな」
普通の国が一月に消費する魔石は、だいたい、百キロほどと言われている。
ヘイムダル法国のような大国なら、多く見積もっても三百くらいだろうか?
ただ、目の前で生産されている魔石は、それを遥かに超える量だ。
パッと見ただけで、千キロを超えている。
現在、確認できるだけで千キロ。
過去に生産されているもの、これから生産予定のもの。
それらを換算したら、万を超えるかもしれない。
それほどの大量の魔石を、いったい、なにに使うのか?
「……戦争、か?」
魔石は人々の暮らしを豊かにしてくれる、魔道具の生産に欠かせない。
同時に、兵器の運用にも欠かせない。
大量の魔石を用意することは、必ずしも戦争に直結するわけではないが……
今のところ、他の用途が思い浮かばない。
「……今は、これで十分だな」
――――――――――
来た道を引き返して。
見張りの兵士に、俺のことをうまいこと言い含めて。
その後、ブリジット王女とパルフェ王女と合流した。
「大量の魔石が……」
隠し通路の先で見た光景を報告すると、ブリジット王女は険しい表情を作る。
「もしかしたら、ヘイムダル法国は戦争の準備をしているのかもしれません」
「エルトシャン王子は友好的だったから、そんなことはないと思いたいけど……うーん。アルム君が見た光景を考えると、信じることはなかなか……」
「ボクからも報告があるよ」
そう言うパルフェ王女の肩や頭に、偵察に出た小鳥が乗っていた。
いつの間にか帰ってきたみたいだけど……
肩や頭に止まる姿が可愛らしく、ちょっと緊張感が抜けてしまう。
「この子達の報告によると、最近、ヘイムダル法国は大量の鉄を輸入しているらしい」
「鉄を……?」
「他にも、銅や銀。ミスリルなんていう貴重な金属まで、多数。この子達が、それらを密かに運んでいるところを見たらしい」
大量の金属を必要とするのは、どういう場合か?
色々なケースが想定されるものの……
その中の最悪は、戦争の準備だ。
「これ、ますます疑いが強くなってきたね……」
「でもさ、戦争をする理由がわからないんだよね。まあ、フラウハイムとヘイムダルは友好国ではなくて、同盟を結んでいるわけじゃない。でも、敵対国っていうわけじゃない。そして、ヘイムダルは世界制覇を考えるような野心的な国家でもない」
「そこなんだよね……」
ブリジット王女は、悩ましそうにパルフェ王女の意見に頷いた。
その疑問はよくわかる。
関係が悪化していないのなら、特に戦争を起こす理由はないはずだ。
ヘイムダルは乾いた土地ではあるものの、それを補うだけの技術があり、他所の土地を奪おうと考えることはないだろう。
そもそもの話。
ヘイムダルがフラウハイムを狙っているのだとしたら、帝国と組んでいたはずだ。
帝国と同盟を結び、多方面から攻め込めば勝利は確実。
フラウハイムの全てを己で独占したいというのなら、同盟を結ばなかった理由もわかるのだけど……
やはり、そのような不確実な、失敗の可能性が上がる方法を選ぶとは思えない。
ここに来て、ヘイムダルが動きを起こすだけの『なにか』があったのだろう。
それは……