234話 闇は深く
「……」
気配を殺して、物陰に身を潜める。
息も止めて、完全に『無』となる。
巡回の兵士は俺に気づくことなく、過ぎ去っていった。
「……ふぅ」
さすがに緊張するな。
外交で来ている中、俺が諜報活動をしていることがバレてはいけない。
そのようなことになれば問題に発展してしまう。
ただ、ブリジット王女とパルフェ王女は止めていない。
そうする必要がある、と判断したのだろう。
俺も同意見だ。
敵は、短期間でニ度も刺客を送ってきた。
いずれもシロ王女を狙ったもので間違いないだろう。
このまま時間を与えれば、さらなる強硬手段に出る可能性がある。
それを防ぐには、短期決戦しかない。
「故に、敵の情報を得たいところだが……」
城の探索をしたところ、いくつか警備が厚いところがあった。
王族の私室などは、当然、警備が厚い。
ただ、そうではない、なんてことのない部屋なのに警備が厚いところがあった。
書庫。
広さはそこそこではあるが、本以外になにもない。
ないはずなのに……
侵入者用のトラップは探知器具が山のように設置されていた。
そのどれもが素人には気づかれないようなもので……
どう見ても怪しい。
怪しいのだけど、あそこを正面突破するとなると、かなり骨が折れる。
準備をするだけで時間がとられてしまい……
準備を整えたとしても、成功確率は低い。
ならば絡め手でいこう。
――――――――――
「やあ」
「こ、これはエルトシャン王子!」
「警備、ごくろう。なにか問題は?」
「いえ、なにもありません」
「ふむ……もしかしたら、と思ったのだけど、杞憂だったかな?」
「あの……」
「ああ、すまないね。単なる独り言だ。それよりも、この先に行きたいのだが……」
「はっ、かしこまりました。すぐにロックを解除いたします」
兵士はピシリと敬礼をした後、奥の本棚に移動した。
本……に偽装された鍵を動かして、それを定められた箇所、順番で収めていく。
すると、本棚の一部が動いて通路が現れた。
「どうぞ」
「ああ、ご苦労さま」
兵士を軽く労い……俺は、隠し通路に足を踏み入れた。
そのまま階段を下り、軽く吐息をこぼす。
「うまくいったようだな」
なんてことのないはずの書庫なのに、警備がとても厳重。
中に、なにかが隠されているか。
あるいは、真に重要な場所に繋がる隠し通路の入り口となっているのか。
そう推測した俺は、エルトシャン王子に変装をして、真正面から堂々と進むことにした。
本来なら、エルトシャン王子をもっと深く、長く観察して、完璧な変装をものにしてからの方がいいのだけど……
その時間はないと判断して、思い切り、不完全な状態での潜入を決行することにした。
結果は成功。
兵士をうまく騙すことができて、予想通り、隠し通路に進むことができた。
「さて……この先になにが待っているか」
エルトシャン王子らしさを意識しつつ。
なにがあっても驚かないように心を落ち着けながら。
俺は、地下に続く階段を下る。
「これは……!?」
驚かないようにしなければいけない。
そう心構えをしていたのだけど、地下にある光景を見て、思わず驚きの声を漏らしてしまった。