232話 敵の狙いはどこに?
その後、ブリジット王女とパルフェ王女は、それぞれ別の客室に案内された。
王族をもてなしているので、かなり豪華な部屋だ。
当然だけど、俺は別室。
二人の客室に近いところにはあるものの、部屋の広さも調度品などのランクは比べ物にならない。
まあ、それはどうでもいい。
俺達は、ブリジット王女の部屋に集合して、今後のことを話し合う。
「それじゃあ、これからについてなんだけど……」
「少々お待ちを」
「え?」
「……ウインドクリエイト」
「魔法? えっと……なにも起きていないみたいだけど、どういうこと?」
「風の流れを作り、簡易的な結界を作りました。防御能力はありませんが、これで、会話を盗み聞くことはできないかと」
「……それ、かなり高等技術だと思うんだけど」
「アルムは、本当になんでもアリだねえ……ふふ、ますます興味深い」
「お褒めいただき、ありがとうございます」
ブリジット王女の言葉は素直に嬉しいのだけど……
パルフェ王女は、その実験動物を見るような目をやめてほしい。
それなりに鍛えられてきたつもりなのだけど、それでも恐怖を覚えてしまう。
「さて……じゃあ、これでなにも気にすることなく話せる、っていうわけだね。さっそくだけど、二人は、ヘイムダル法国をどう思った?」
「良い国だと思うね。土壌はなかなか厳しそうだけど、それを感じさせないくらい、国は栄えていた。民も生き生きとしているから、さすが、と見習うべきところが多いよ」
「自分もパルフェ王女と同じ意見です」
基本、豊かな地がないと、国も豊かになることは難しい。
だが、ヘイムダル法国はその基本的な概念を覆していた。
緑と水の少ない荒野に国がありながら、フラウハイム王国と同じくらい……いや。
それ以上の発展を遂げている。
常識的に考えてありえないことだ。
そこまでできる力は、どこにあるのだろうか?
「うん、私も同じ。まだやってきて少しだけど、とても良い国だと思う」
「ただ、それは表の面。裏はどうなっているか……ふふ、楽しみだね」
トラブルを望んでいるかのように、パルフェ王女が物騒な笑みを浮かべた。
パルフェ王女は、平穏よりもトラブルを望むタイプだからな……
立ち位置としては、トラブルメーカーに近い。
「アルム君、なにか感じたことはある?」
「何者かわかりませんが、謁見中……それと街に入ってから、いくらかの敵意を感じました」
「うーん……それじゃあ、やっぱりヘイムダル法国が怪しいのかな?」
「それは、まだ断定できません」
敵意を向けられたから敵がいる。
そう考えてしまうのは仕方ないことだけど……
ただ、その図式は必ずしも成立するわけではない。
敵が賢い場合、この時期、このタイミングの訪問を怪しむはずだ。
ブリジット王女とパルフェ王女を警戒するだろう。
そんな時に敵意なんてものを向ければ、疑いを強くしてしまうだけ。
普通に考えて自重するだろう。
とはいえ、敵が愚かという可能性もある。
ただ感情の赴くまま敵意を向けて、なにも考えていない、という場合も。
「どちらのパターンか、それはまだ見極められていませんが……少なくとも、ヘイムダル法国に事件の手がかりがあることは間違いないかと」
「なるほど」
事情を説明すると、ブリジット王女は納得した様子で頷いた。
そのまま思考を巡らせて、しばしの沈黙。
ややあって口を開く。
「犯人を突き止めるよりも、なんでシロちゃんが狙われたのか、その理由を考えるべきなのかな?」
「ふーむ……でもそれは、シロが新型の魔石を開発したからじゃないのかな?」
「それにしては、なんかこう、敵の動きが散漫というか統一感がないというか……ごめんね。うまく言えないけど違和感があるの」
「姉さんの勘は当たるからなあ」
「そもそも、新型の魔石が欲しいのなら、シロちゃんだけじゃなくて研究成果も狙おうとしない? それなのに、そっちに手を出した痕跡は今のところなし。シロちゃん自身が狙われているのかな、って考えた方がいいのかも」
「なるほど」
「そこから逆算して、犯人にたどり着ければ、って思ったんだけど……どうかな、アルム君」
さすが、というべきか。
ブリジット王女は、俺とまったく同じことを考えていたみたいだ。
「はい、それで問題ないと思います」
「うん、よかった。アルム君も賛同してくれて」
とはいえ、なにをするにしても情報が必要だ。
今は、その情報が圧倒的に不足している状態。
今後の方針を決めるためにも、まずは情報が欲しい。
「自分は、これから諜報活動を行います」
「……諜報活動を行う執事って、なんだろうね」
「……私は最近、たいぶ慣れてきたよ」
なぜか、パルフェ王女とブリジット王女が遠い目をするのだった。