231話 第一王子
「ようこそ、我がヘイムダル法国へ」
王城に到着すると、謁見の間に案内された。
そこで、とびきりの笑みを浮かべる美男子に挨拶をされる。
「僕は、エルトシャン・グラ・ヘイムダル。ヘイムダル法国の第一王子だ。我が国は、ブリジット王女とパルフェ王女を歓迎しよう」
表向きは外交目的なので、王城に赴いたのだけど……
思っていたよりも友好的な挨拶をされた。
今まで国交を結んだことがないため、悪感情を向けられることも覚悟していたが、今のところ、そんな様子はない。
もっとも油断はできない。
人の良さそうな笑みの下になにを隠しているか、わかったものではないからな。
「はじめまして。フラウハイム王国第一王女、ブリジット・スタイン・フラウハイムです」
「第二王女、パルフェ・スタイン・フライハイムです」
両王女は綺麗に頭を下げた。
パルフェ王女も、あのような挨拶ができるのか……と、失礼ながら驚いてしまう。
いや、仕方ないだろう?
普段が普段なので、なかなか今の姿は信じられない。
「ふむ」
エルトシャン王子は、ブリジット王女とパルフェ王女を交互に見た。
それから、ブリジット王女に視線を固定する。
「……」
「どうかされましたか?」
「いや、なに。こうして実際に見ると、ブリジット王女はとても美しいのだね。ついつい視線を奪われて、我を忘れてしまったよ」
「えっと……」
いきなり歯の浮くような台詞が飛び出して、ブリジット王女は困惑した。
ただ、エルトシャン王子にとっては当たり前のことなのか、調子を崩すことはない。
「はは、すまないね。僕は、思ったことはついつい口に出してしまう性格なんだ」
「はぁ……」
「もちろん、パルフェ王女も美しい。このような場でなければ、お二人とゆっくり語り合いたいところだよ」
「それは光栄です」
パルフェ王女が頭を下げた。
ただ、俺は、その顔がちょっと引きつっているのが見えた。
パルフェ王女、ああいう相手は苦手そうだからな。
「それと、お二人には妹君がいるのだろう? シロ王女……そう、彼女とも会って話をしたいところだ。じっくりと……ね」
「……っ……」
一瞬ではあるが、ものすごい悪寒を感じた。
今のは、いったい……?
「さて、挨拶はこれくらいにして……」
エルトシャン王子は笑顔を浮かべたまま、外交の話に入る。
もちろん、本格的なものではない。
こちらも挨拶のようなもので、後々、しっかりとした交渉が重ねられていくだろう。
この話は、ブリジット王女とパルフェ王女に任せる。
本来なら俺は、二人をサポートする立場にあるが……
ただ、今回の本当の目的は外交ではない。
あくまでも外交はおまけ。
本当の目的は、シロ王女を狙う者を探し出すこと。
なので、ブリジット王女達が話をしている間、俺は周囲の気配などを探ることにした。
最悪の想定ではあるが……
敵が王城内に潜んでいないとも限らないからな。
(……ふむ?)
もしかして、だけど。
最悪の想定が当たってしまったかもしれない。
わずかではあるが、敵意を感じた。
絡みついてくるような。
それでいて、鋭く刺してくるかのような。
そんな敵意。
ただ、わからないところがある。
その敵意は、ブリジット王女やパルフェ王女ではなくて、俺に向けられていた。
俺は一介の執事にすぎない。
そんな俺を敵視して、どうするというのか?
相手は、なにを考えているのか?
(ヘイムダル法国の王子……エルトシャン・グラ・ヘイムダル、か)
敵意を放つ主に対して、俺は、いくらか警戒心を引き上げるのだった。