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230話 潜入調査

 シロ王女の誘拐未遂事件は謎が多く、対策を立てることができない。

 送られてくる刺客は大した情報を持っていないため、やはり対策を立てることが難しい。


 このままだと、後手後手に回るだけ。

 知らぬ間に追いつめられて、いつか最悪の展開を迎えてしまうかもしれない。


 故に、多少のリスクを覚悟で行動することにした。


 ヘイムダル法国への潜入調査。


 この目で直接、事件について調査をするしかない。

 ただ、その間、シロ王女の護衛が手薄になってしまう。


 そこが不安ではあるが……

 ゴルドフィア王は、しばらくならば問題ないと言い切ってくれたので、本当に問題ないのだろう。


 その言葉を信じて……

 後を、ヒカリやセラフィーに任せて……


 俺達は、ヘイムダル法国に潜入することにした。




――――――――――




「へぇー、ここがヘイムダル法国か。けっこう暑いんだね」


 パルフェ王女が感心した様子で言う。


 大地は乾いていて、緑は少ない。

 水も少なく、雨もあまり降らない。


 それでも、街は活気にあふれていた。


「あれ、法国の特産品かな? うちでは見たことないよね」


 ブリジット王女は、興味深そうに街を見る。


 好奇心が半分。

 残り半分は、自国に取り入れれば……という勉強心によるものだろう。


「……はぁ」

「どうしたの、アルム君。ため息なんて珍しいね?」

「まあまあ、姉さん。アルムも男だ。ボクらみたいな美少女に囲まれての旅に、緊張しているのさ」

「え、そうなの? もう、アルム君ったら」

「……違います」

「否定された!?」

「どうしてこのような状況になっているのかと、頭を抱えたい気分になっていたところです」


 ヘイムダル法国にやってきた。

 ただ、当初の予定とは大幅に異なり……


 ブリジット王女とパルフェ王女が一緒。

 友好を結ぶため、という理由で二人はヘイムダル法国を訪れて……

 その外遊に俺も一緒する形となっていた。


「危険があるかもしれないのに……」

「でも、これが一番いい方法じゃないかな?」


 ブリジット王女の言葉を否定することはできない。


 シロ王女が狙われている。

 ならば、ブリジット王女やパルフェ王女も狙われる可能性がある。


 その危険性はあるのだけど……


 無理に潜入するよりは、外交ということにして、真正面から堂々と乗り込んだ方が危険は少ない。

 ……と、ブリジット王女が周りを説得してしまった。


 パルフェ王女が一緒なのは、彼女が持つ能力に頼るためだ。

 動物や魔物を操ることができる。

 その能力はとても貴重なもので、密かに調査をする時、心強い味方になってくれるだろう。


 そのようなわけで、二人の外交に俺が同行する形になった。


 もちろん、他に護衛はいる。

 今も、シロ王女が開発した、王族専用のとても頑丈な馬車に乗っての移動だ。

 そうそう危険が及ぶことはないと思うが、しかし、絶対はない。


「……胃が痛い」

「大丈夫、アルム君? お薬、用意しようか?」

「ほうほう、あのアルムが胃痛を覚えるとは……興味深いね。ちょっと解剖していいかい?」

「散歩に行こう、みたいなノリでとんでもないことを言わないでください」

「やれやれ、振られてしまったか。残念」


 はっはっは、とパルフェ王女が笑う。


 本当、頭が痛い……


 本来なら、二人の要望はなにがなんでも跳ね除けていた。

 嫌われたとしても許可なんてしない。


 ただ……


『シロちゃんが関わっているなら、それはもう、私の問題だよ』

『こう見えても、シロの姉だからね。妹のためにがんばることはやぶさかじゃないさ』


 ……なんてことを言われたら断れない。


 もう引き返すことはできない。

 突き進むだけだ。


 なら、後悔は後でいい。

 今は、二人を無事に王国に帰すことだけを考えよう。


 この身は、王国と……そして、ブリジット王女に捧げているのだから。



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