23話 約束して?
「まだ起きていたんだ」
「明日のことを考えると、なかなか眠れなくて」
「アルム君でも緊張することがあるんだね」
「もちろんですよ」
明日行われるものは、戦いではない。
戦争だ。
小規模ではあるものの、戦いが繰り広げられることになる。
敵味方、共に被害が出るだろう。
「援軍のおかげで勝算が出てきました。でも、必ず勝てるわけではありません。勝てたとしても、ある程度の被害が出てしまうでしょう……もしかしたら犠牲も。それを考えると……」
「ごめんね、無神経なことを言ったかも。アルム君でも、なんて……」
「気にしないでください。本来、今の俺が間違っているのですから」
執事が主を心配させてはならない。
どんな時でも、なにがあろうとも、どっしりと構えていなくてはいけないのだ。
それができない俺は、まだまだ未熟者なのだろう。
「私、期待しすぎていたのかな? プレッシャーになっていたのかな?」
「そんなことは……」
「でも……それでも、あえて言うね。アルム君なら大丈夫」
ブリジット王女はにっこりと笑う。
それは本当に優しい笑みで……
今、この空に浮かんでいる月のようだった。
静かで、優しくて。
そっと隣で見守ってくれるかのような、そんな笑み。
「どんなことがあっても、アルム君なら乗り越えられるよ。絶対に」
「しかし……」
「大丈夫、アルム君は一人じゃないから」
ブリジット王女がそっと俺の手を握る。
「私がいるよ」
「……ブリジット王女……」
「ううん、私だけじゃない。ここまでついてきてくれた騎士、新しく仲間になった人達、村の人達……みんながいる。だから大丈夫、絶対にハッピーエンドを掴み取ることができるよ」
不思議だ。
彼女の言葉を聞いていると、それ以外の結末はありえないように思えてきた。
「すみません、立場が逆になってしまいました」
「逆?」
「ブリジット王女も不安なはずなのに……俺が励ますべきなのに」
「そんなこと気にしないで。私だって、アルム君の力になりたいの。こうして言葉をかけることしかできないけど……それでも、なにかしてあげたいの。だって、私は……」
ブリジット王女はじっとこちらを見つめてきた。
その瞳は熱っぽく、潤んでいるように見える。
「……ううん、なんでもない」
そっと、ブリジット王女が離れた。
「ねえ、約束してくれる?」
「約束ですか?」
「明日、無茶をしないで。絶対に無事に帰ってきて」
「それは……」
難しい約束だ。
俺だって死んでしまう可能性はある。
「ダメ?」
「できるなら約束をしたいですけど、しかし……」
「よし、じゃあこうしよう」
なにを思ったのか、ブリジット王女は身につけていた指輪を外して、それを俺の指につけた。
「それ、お祖母様の形見なんだ。子供の頃から大事にしているの」
「えっ」
「お守りとして貸すから、それを返しに来てね?」
「……ブリジット王女……」
「絶対に約束を破ったらダメだよ? というか、これは命令ね。明日は必ず生きて帰り、その指輪を私に返すこと。いい?」
「……はい」
頷いて、ブリジット王女の前に膝をついた。
「その命、必ず果たすことを約束いたします」
「よろしい♪」
ブリジット王女はそっとかがみ、
「……ん……」
そっと、俺の頬に唇を触れさせた。
「え、いや……」
「ふふ、これはおまじないだよ♪」
「……ありがとうございます」
ブリジット王女の頬はほんのりと赤く……
たぶん、俺も似たような顔になっているんだろう。
――――――――――
「じゃあ、私はそろそろ寝るね」
「はい、おやすみなさい」
私はアルム君と分かれて、宿として利用している家に戻る。
自室に移動して、ベッドに横になって……
「ああああああああああぁ!?」
悶えた。
ごろごろ。
ばたばた。
とにかく悶えた。
「やりすぎた!? やりすぎたよね!? アルム君を励ましたいとは思っていたけど、でも、ほっぺに、ち、ちちち……ちゅー、とか……あわわわわわ!?」
とんでもなく恥ずかしくなり、枕を両手で抱えて顔を埋めた。
そして、うーうーと唸る。
「……でも、これだけじゃなくて、今回の件が無事に終わったら、もっと……」
って、私はなにを考えているのさ!?
痴女!? 痴女じゃない、これ!?
「ああああああああああぁっ!!!?」
その夜……私はなかなか眠ることができないのだった。
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