228話 トライブレード
トライブレード。
三人一組の暗殺者。
個々の力はシャドウに劣るものの、その連携はすさまじい。
思考と心を繋げているかのように、互いの動きを瞬時に把握することができる。
相手の望んでいることを理解して。
望まれていないことを理解して。
まったく狂いのない、完璧な連携を披露する。
それに抗える者はいない。
トライブレードの連携攻撃を受けた者は、反撃することも避けることも防ぐこともできず、その刃の前に散るのみ。
依頼達成率は、驚異の99パーセント。
1パーセントのミスは、シャドウを相手にした時だ。
それでも、負けることはない。
ターゲットの暗殺はできなかったものの、引き分けに持ち込んでいるため、実質、100パーセントのようなもの。
また、彼らは暗殺だけに特化していない。
心が同調しているかのような動き、思考を広げることができるため、諜報活動にも秀でていた。
時に軍の機密を探り。
金を強奪して。
そして、国の要人をさらう。
シャドウに匹敵する、超一流の暗殺者だ。
彼らに敵う者はいない。
かつて、仕留めきれなかったシャドウでさえも、今ならば倒せるという自信があった。
それだけの鍛錬を積んできた。
昔とは比べ物にならないほどの成長を遂げた。
……それなのに。
「なんだ、この執事は……!?」
トライブレードの一人が、驚愕の声をあげた。
1秒の狂いもない完璧な連携攻撃。
普段ならば、ターゲットはなにが起きたかわからないまま死んでいる。
ただ、自分達の前に立ちはだかったこの執事は違う。
それが当たり前のことのように、簡単に回避してみせた。
いや。
回避するだけではない。
同時にカウンターを繰り出してきて、一人の腕を折っていた。
こちらは三人。
武装して、完璧な連携を見せている。
相手は一人。
武器はなくて、徒手空拳。
見た限り、ただの執事だ。
世界最高峰の暗殺者を圧倒する執事なんて、いてたまるものか。
トライブレードは奮起して、再び連携を見せた。
二人が前に出て、残り一人が時間差で攻撃を叩き込む。
そのタイミングは絶妙だ。
最初の二人の攻撃も、微妙にタイミングがズレている。
普通の者なら、受けて耐えるしかない。
猛者であれば避けることは可能だが、そこで完全に体勢を崩してしまうため、三人目の攻撃を避けることは叶わない。
叶わないはずなのだけど……
「甘い」
「なぁっ……!?」
アルムは、最初の二人だけではなくて、三人目の攻撃も含めて、全て回避してみせた。
彼らの連携をあらかじめ知っていなければできない動きだ。
「貴様……我らについて研究を進めていたのか?」
「まさか、どこかで情報が……」
「なにを言っている?」
アルムは、それが当たり前のように言う。
「拙い連携と、遅く鈍い攻撃。避けられない方がおかしいだろう?」
「「「貴様っ!!!」」」
とびきりの挑発を受けて、トライブレードは激怒した。
もっとも……
アルムは挑発のつもりはなくて、ただの純粋な感想だ。
つまり。
アルムにしてみれば、トライブレードはその程度ということだ。
言葉通り、まったく脅威として捉えていない。
それだけの実力差がある。
ただ、トライブレードはそれに気づかない。
認めることはできない。
世界最高峰の暗殺者が執事に負けるなんて、そんなバカな話があってあたまるものか。
いい笑いものだ。
たとえ生き延びたとしても、この先、仕事ができなくなってしまう。
廃業まっしぐらだ。
本気で叩き潰す。
生意気な口を効いたことを後悔させてやる。
トライブレードは殺気を嵐のように撒き散らしつつ、アルムに迫り……
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「……思っていたよりも呆気ないな」
三人組の暗殺者を叩きのめして、俺は服についた汚れを手で払う。
「う……ば、バカな……我らの連携が、まったく通用しないなんて……」
「ば、化け物だ……こいつは、正真正銘の……」
「ぐぅ……どうして、このようなことに……」
手加減したので意識はあるようだ。
動けないように拘束した後、監視塔の下の兵士を呼んで、怪我人の救護を頼んだ。
そして俺は……
「まず最初に、俺に色々と話してもらおうか?」
じっくりと、ゆっくりと、とことん話を聞くことにした。