227話 教育してやろう
「ねえねえ、お兄ちゃん。シロ、遊びに行きたいなー」
「今日の分の勉強を終わらせれば、いくらでも」
「うぅ、お兄ちゃんの意地悪!」
ひーん、という悲鳴をあげつつ、シロ王女は勉強を再開した。
その姿を見ていると、山のような執務に囲まれて泣き言を漏らすブリジット王女を連想させられる。
姉妹だな、と感じさせる光景だ。
微笑ましい、と思うのは、ブリジット王女と似ているからだろうか?
……この光景に微笑ましさを覚えていたらダメだな。
ブリジット王女もシロ王女も、きちんと自分のやるべきことをこなしてほしい。
その後でなら、いくらでも遊んでもらって構わないのだけど……
二人は、それよりも先に遊ぼうとするからな。
……まあ、パルフェ王女も似たようなものか。
そうなると、フラウハイム王国の三姉妹王女は、わりと問題児なのか?
むぅ……
執事として、主を正すことは義務だ。
少し燃えてきたな。
とはいえ……
シロ王女の矯正は、また今度になりそうだ。
「来たか」
とある気配を感じて、俺はぴくりと眉を動かした。
今考えていること。
思っていること。
それらは、絶対にシロ王女に悟られてはいけない。
表情を変えることなく、気配も変えない。
その上で口を開く。
「ヒカリ」
「はいっす」
「うわ!? ヒカリちゃん、どこにいたの!?」
突然、ヒカリが現れてシロ王女が驚いていた。
驚かせたことは申しわけないと思うのだけど、緊急時なので許してほしい。
「シロ王女。俺は少し用事ができたため、一時、席を外します」
「え? そうなの? じゃあ、勉強も……」
「がんばってくださいね」
「ひーん」
にっこりと言うと、シロ王女はげんなりした。
それでも、ペンを動かす手を止めないのはさすがだ。
「ヒカリは、このままシロ王女を頼む」
「自分が行かなくていいっすか?」
「今度は、俺が対処する。この目で直に確認したい、というのもあるからな」
「了解っす」
「???」
俺達の会話の意味がわからず、シロ王女は不思議そうにしていた。
でも、わからないままでいい。
――――――――――
城を守るように、四隅に立つ監視塔へ向かう。
天を目指すかのように高く。
そして、魔法の直撃を受けてもびくともしないほど頑丈な場所だ。
ここで常に城内、城下の警戒が行われている。
全ての機能が集中しているわけではないが、守りの要の一つといっても問題はない。
「……」
兵士達が倒れていた。
代わりに、黒装束の男が三人。
先日、ヒカリが捕まえた者の仲間だろう。
「フラウハイム王国へようこそ。入国の目的は? 手形はお持ちで?」
「「「……」」」
「もしかして、無許可の入国ですか? それは困りましたね」
軽口を叩いてみるものの、乗ってくる様子はない。
男達は、音もなく武器を構えた。
問答無用……か。
まあいい。
元々、話し合いで済むなんて思っていない。
力には力をぶつけるまでだ。
それに、兵士達のことも気になる。
兵士達は気絶させられているだけ。
とはいえ、軽傷というわけではなさそうだから、早く手当をしないといけない。
「来い」
こちらも構えた。
「フラウハイム王国に槍を向けたこと。そして、シロ王女に手を出そうとしたこと……その愚かさを、その身をもって教育してやろう」