225話 定例報告
「……以上です」
一時的にシロ王女の専属となり、三日が経った。
ひとまずの報告をするために、ゴルドフィア王のところへ。
シロ王女の護衛ならヒカリに頼んでいるため、問題はないだろう。
そもそも、男である俺がずっと一緒にいられることはない。
性別を抜きにしても、24時間、動き続けることはさすがに難しい。
交代で厳重な警備体制を敷いているため、今のところ、問題らしい問題は起きていない。
「ふむ」
俺の報告を聞いて、ゴルドフィア王は、なにかを考えるように髭を指先で撫でた。
「シロはがんばっているようだな」
「はい。専属になり、初めて知ることが多く……改めて、素晴らしい才能を持っていると感じました」
「うむ、うむ。そうだろう? シロは幼いけれど、とても賢いからな。将来が期待できる」
ゴルドフィア王は、とても嬉しそうに言う。
相変わらずの溺愛っぷりだ。
とはいえ、相手がシロ王女なら、それも仕方ないと思う。
愛らしいだけではなくて、不思議と周囲の人を惹きつける魅力がある。
もしも、ブリジット王女の前にシロ王女に出会っていたら、彼女に仕えていたかもしれない。
「して……もう一つの件については?」
「そちらについては、調査を進めていますが……」
「まだわからぬか?」
「詳細は。ただ、ある程度の予測を立てることができています。とはいえ、まだ確たることは言えませんが」
「それでもよい」
不確定な情報はなるべく出したくないのだけど……
とはいえ、少しでも手がかりが欲しいというゴルドフィア王の考えも理解できた。
「先日の不審者ですが、おそらく、南のヘイムダル法国の関係者かと」
「ヘイムダル……か」
ヘイムダル法国。
フラウハイム王国の南に位置する、巨大な宗教国家だ。
交流がないため詳しいことはわからないものの、国全体で神を崇めているらしい。
宗教が人と人を繋いで、国を成り立たさせている。
国土は、フラウハイム王国の約5倍。
かつての帝国に匹敵するほどの軍事力を持つ。
とはいえ、現状、それほど危険視されていない。
彼らが崇める神は平和主義者らしく、意味のない争いは禁じられているという。
ただ……
逆を言えば、意味のある争いなら問題ないということだ。
シロ王女の件にどれだけ絡んでいるかわからないけれど、もしかしたら、将来、敵対国家となる可能性がある。
「……我が国の兵力は、現在、どのような感じだ?」
「かつての帝国を100とするならば、70といったところでしょうか。兵数は劣っていますが、個の資質は、訓練により大きく伸びているかと」
カインやセラフィー率いる傭兵団が加入した影響が大きい。
「なるほど……しかし、自分で問いかけておいてなんだが、なぜ、貴様が我が国の兵力を知っている?」
「? 執事ならば当然のことでしょう?」
「……まあいい」
考えるのを放棄した?
「その数値換算でいくと、ヘイムダル法国は?」
「最近は軍備を増強しているらしく……推測になりますが、120ほどかと」
「50の差か……敵に回したくはないな」
「はい」
「ただ、シロに手を出すというのならば、容赦はせん」
「もちろんです」
不審者の正体は、まだ確定していない。
ヘイムダル法国の関与も不明だ。
しかし、関与が確定した時は、開戦の可能性がある。
民なしに国は存在できない。
ただ、王族なしに国が機能することもない。
王女にちょっかいを出してきたとしたら、それは、なにかの間違いなどで済ませることはできない。
このようなことがニ度を起きないように、徹底的な抵抗が必要となる。
それができない場合は、あの国は抗う力がないと舐められてしまい、いずれ、飲み込まれてしまうだろう。
「とはいえ、まだ可能性の段階です。そして、ヘイムダル法国の関与が確定したとしても、国全体の意思なのか、それとも一部の暴走なのか、そちらを調べないといけないでしょう」
「それくらいわかっておる。迂闊に戦端を開くことはないから、安心せい」
「はい」
「とはいえ……」
ゴルドフィア王は席を立ち、窓の外を見る。
空は灰色の雲に覆われていて、今にも雨が降り出しそうだった。
「きな臭い感じになってきたな」