224話 シロの専属の勉強
シロ王女は王族ではあるものの、まだ幼いため、執務に関わることはほとんどない。
あるとしたら、外遊などの公務についていくことか。
代わりに、将来に備えて色々なことを学ぶ。
単純な知識。
礼儀とマナー。
歴史と技術と魔法と……数え切れないほどだ。
ただ、シロ王女は、その全てを文句も言わず、むしろ笑顔でやり遂げている。
色々なことを覚えるのが楽しいらしい。
生粋の学者、あるいは開発者気質なのだろう。
とはいえ、
「はひぃ……はひぃ……ひぃーーーん」
ぜはーぜはーと荒い息をこぼしつつ、軽装に身を包んだシロ王女は、騎士団が使う訓練場のトラックを走っていた。
適度な運動は健康な体の資本だ。
故に、2日に一回ほどの割合ではあるものの、こうして運動をする日が設けられている。
ただ、シロ王女は頭脳派で肉体派ではない。
運動は大の苦手で、今にも倒れてしまいそうだ。
他のメイド達は、ハラハラドキドキ。
とても心配そうだ。
ただ、教官を務める騎士は顔色を一つも変えず、キビキビとした様子で指示を飛ばす。
「シロさま! 想定よりもタイムが遅れています。もっと急いでください」
「そ、そんなことぉ、ひぃ……言われてもぉ……はひぃ」
「遅れれば、その分、追加を課さなければなりません」
「ひぃいいい……お、鬼ぃ……」
「姫さまのためならば、鬼にでもなんでもなりましょう」
うん、スパルタだ。
ちょっと可哀想なのだけど……
指導は適切な範囲で行われているし、体力が必要なことも確かだ。
運動も必要。
となれば、俺も、メイド達と同じように見守るしかない。
「お、おにいちゃーーーん……た、たすけ、助けてぇ……」
「……がんばってください」
「うぇえええーーーん」
ものすごく良心が痛んでしまうのだけど、俺は、ぐっと我慢をして見守り続けた。
――――――――――
次は知識を得るための勉強だ。
たくさんの講師から色々なことを教わる。
「ふんふーん♪」
運動の時とは違い、シロ王女は笑顔だ。
スラスラとペンを走らせて、楽しそうに勉強をしている。
頭を使うことは得意なのだろう。
頭脳派だ。
「そこまでです」
「はーい」
「では……ふむ」
講師がテスト用紙を見て、満足そうに頷いた。
「さすがですね。満点です」
「わーい♪」
今、やっていたテストは、成人が受けるようなものなのだけど……
それで満点を取るとは、すさまじい。
「ねえねえ、お兄ちゃん」
くるっと振り返り、シロ王女はなにかを期待するような目を向けてきた。
「えへへー、すごい? シロ、すごい?」
「ええ、すごいですよ」
「褒めて褒めてー」
「さすがです、シロ王女。とても俺には真似できません」
「にへへー♪」
とてもごきげんだ。
講師は、あまり褒めないでほしい、というような顔をした。
気持ちはわかる。
褒めるだけにしてしまうと、調子に乗ってしまうかもしれない。
時に厳しいことを混ぜることで、より奮起してもらうことができる。
とはいえ。
これだけの偉業を成し遂げているのだ。
褒める以外の選択肢はないだろう?
そもそも……
褒めるべきところで褒めないと、人は、やる気なんて簡単になくしてしまう。
それどころか、誰も褒めてくれないと、モチベーションが最悪になってしまう。
心も歪んでしまうかもしれない。
故に、俺は、褒めるべきところはしっかりと褒める。
従者としてではなくて。
ただの一個人として、素直に思ったことを伝える。
「さすがです、シロ王女」
「えへん」
シロ王女は得意そうに胸を張るのだけど、それはそれで、どことなく可愛らしいのだった。