223話 シロの専属の朝
朝。
決められた時刻にシロ王女の部屋を訪ねて、扉をノックする。
「シロ王女、おはようございます」
「……」
「朝ですよ。起きていらっしゃいますか?」
「……」
返事がない。
たぶん、寝ているのだろう。
鍵は事前に預かっている。
扉を開けて部屋の中へ。
「すぅ、すぅ……むにゅ……」
やっぱり、シロ王女は寝ていた。
無垢な顔で寝息を立てている。
ベッドの隣にあるサイドテーブルの上には、魔道具……らしきものが置かれていた。
それと、無数の工具。
修理なのか改造なのか、はたまた新規開発なのか。
それはわからないが、これのせいで夜ふかしをして、寝坊してしまったらしい。
「シロ王女、起きてください。朝ですよ」
「にゃふー……」
「起きてください」
「……にゃむぅ」
カーテンを開いて、陽光を取り込む。
それから声をかけて、軽く体を揺するのだけど、それでも起きてもらえない。
さて、どうしたものか?
ブリジット王女は寝坊するなんてことはなかったので、こういう時、どうしていいかなかなかに迷う。
起こすだけなら簡単なのだけど……
相手は王族。
下手をしたら不敬罪になりかねない。
それ以前に、主に無礼を働くなんて執事失格だ。
「シロ王女」
「ひゃ!?」
迷った末に、耳元でささやいてみることにした。
びくんと震えて、シロ王女が飛び起きる。
いたずらをされて驚く猫みたいだ。
「お、お兄ちゃん……!?」
「おはようございます、目は覚めましたか?」
「う、うん、覚めたけど……えっと、今……あれ? シロ、なんで起きたんだっけ?」
「大したことはしていませんので、気になさらず。それよりも、朝ですよ。おはようございます」
「おはよう、お兄ちゃん」
にっこりと、満点の笑顔を見せてくれる。
この笑顔は、ブリジット王女とよく似ているな。
そんなシロ王女が狙われているかもしれない。
絶対に守る。
そう決意を改めた。
「えっと……ねえねえ、お兄ちゃん」
「はい」
「シロ、まだちょっと眠いから、目が覚めるおまじないをしてほしいな」
「それは、なんでしょう?」
「ちゅー♪」
シロ王女が笑顔で顔を差し出してきた。
こちらも笑顔で返す。
「ダメです」
「えーーー」
「早く起きて勉強の準備をしてください。でないと……」
「でないと……?」
「シロ王女がぐれました、とゴルドフィア王に報告しますよ」
「それはやめて!?」
シロ王女は、激しく首を横に振る。
たぶん、その光景を想像したのだろう。
娘を溺愛するゴルドフィア王のことだ。
ぐれた、なんて話を聞かされたら、泣きながらどうしてどうして、と詰め寄ってくるだろう。
……うん。
自分で言っておきながら、なかなか酷いことになりそうだ。
「では、自分は部屋の外で待機していますので、準備ができたら声をかけてください」
「……お兄ちゃんには、シロの着替えを手伝ってほしいな♪」
「ゴルドフィア王のところへ……」
「ごめんなさい!?」
シロ王女はとても聡明な人で、そして、優しい心を持つ。
ブリジット王女と同じく、尊敬できる人だ。
ただ……
年相応にわがままなところと、いたずらっぽいところがあり、この先、色々と苦戦させられそうだ。
「やれやれ」
ついついため息をこぼしてしまうのだった。