222話 一時の異動
「……ふむ」
王の執務室に赴いて、誘拐未遂の件を説明した。
そして、俺の推測も一緒に報告した。
「新型の魔石についての話は聞いていたが、その技術を狙い、シロが狙われた可能性がある……か」
「はい。まだ推測の域を出ませんが、しかし、他にシロ王女が狙われる心当たりはなく……」
ゴルドフィア王は考える時間を挟んだ後、頷いた。
「うむ。断言はできぬが、その可能性は高いだろうな」
「はい」
「シロには悪いが、ひとまず、新型の魔石についての研究などは、一時中断としよう」
「……そうですね」
新型の魔石が原因で事件が起きた可能性が高い。
なればこそ、原因を特定できないまま研究を進めるのは危険だ。
シロ王女は、とても落ち込むだろう。
その姿を想像すると、胸が痛む。
ただ、それでも安全が第一だ。
憂いが払えるまでは、危険から遠ざけた方がいい。
「ふむ」
ゴルドフィア王は再び考える仕草を取る。
「……アルムよ」
「はい、なんでしょうか?」
「一時、ブリジットの専属を外れ、シロの専属となってもらえないか?」
「それは……シロ王女の護衛、ということでしょうか?」
「話が早くて助かる」
もちろん、常日頃、シロ王女は表からも裏からも護衛されているのだけど……
いざという時、それでは間に合わないかもしれない……と、ゴルドフィア王は判断されたのだろう。
故に、俺にシロ王女の専属となり、24時間、護衛をしてほしいと。
大役だ。
ただ、そのようなことを任せていただけることはとても嬉しく、身が引き締まる思いだった。
「引き受けてくれるか?」
「はい、全力を尽くします」
「うむ。頼んだ」
――――――――――
「と、いうわけで……新型の魔石の研究のため、しばらくの間、俺がシロ王女の専属となることになりました」
翌日。
準備を終えた俺は、シロ王女の部屋を訪ねた。
ブリジット王女の専属を外れて、シロ王女の専属となる。
それなりの理由が必要なので、新型の魔石の研究の手伝いをするため、ということになった。
本当は研究を中止した方がいいのだけど……
ただ、その場合は、シロ王女に事情を話さないといけない。
心配、不安にさせたくないと考えるゴルドフィア王はそれを良しとせず、影から護衛をしてほしい、と。
そのために、新型の魔石の研究だけは続けることに。
その助手として俺が派遣されてきた、という形がとられた。
「わー!」
「シロ王女?」
目をキラキラ。
口をわくわく。
そんな感じで、シロ王女はとても喜んでいた。
「お兄ちゃんがシロの専属……にへへ」
「どうかされましたか?」
「だってだって、シロにもようやく専属ができたんだよ? これって、一人前のレディ、っていうことだよね!?」
「シロ王女は、専属関係なく、とても素敵なレディかと」
「やだー、お兄ちゃん。そんな本当のこと、もー」
うーむ。
シロ王女は、なんというか……
ちょろいな。
幼さ故の無邪気さなのだろうが。
それだけではなくて、元々の性格が原因でもあるような気がした。
ただ、シロ王女は無邪気で純粋なままであってほしい。
それが彼女の美徳なのだから。
「あ……でも、お姉様、怒らないかな……? お兄ちゃんをとっちゃうなんて」
「一時的な出向のようなものですし、永遠の別離というわけではないので」
「そっか。うん」
にへらー、とシロ王女が笑う。
「これからしばらくの間、よろしくね、お兄ちゃん♪」




