22話 愚かな侵略
「……マジか」
ついついそんな言葉がこぼれてしまう。
女の子が見たというスパイが気になり、村に滞在する期間を伸ばした。
こちらもスパイを放ち、情報を集めて整理したところ……
帝国軍の一部がこの村に向かっているとの情報を得た。
その数は千人ほど。
帝国軍全体と比べたら極小規模ではあるものの、辺境の村に向ける戦力としては過剰すぎる。
最初は威力偵察か、脅しなどを考えていたのだけど……
情報が集まるにつれて、戦いを仕掛けてくる可能性が高いことを知る。
もちろん、帝国からの宣戦布告なんてない。
良好とまではいわないけど、かといって、開戦するほど二国の仲は悪くないはずだ。
それなのに、いったいなぜ……?
「アルム君、ちょっとまずいかも……王都に援軍を要請しているんだけど、準備を含めて2週間はかかるみたい。さすがに、こんなことが起きるなんて予想外すぎて……」
「いえ、仕方ないと思います。しかし……対する敵は1週間もあれば村に到着する、か」
「……ごめん。攻撃なんてありえないと思っていたから、判断が遅れた……」
「ブリジット王女のせいではありませんよ。俺だって、こんなバカな攻撃をしかけてくるなんて思っていませんでしたから」
宣戦布告なしの侵略。
なにが目的なのかわからないが、そんなバカなことをしたら、下手したら帝国は終わるぞ?
もしかして、この件にもリシテアが関わっているのだろうか?
彼女の命令で、この村を占拠しようと……いや、まさかな。
わがままでどうしようもない幼馴染だけど、ここまでアホではないはずだ。
……違うよな?
「王はなんて?」
「色々と動いてくれているみたいだけど、やっぱり、時間が足りなくて……」
「援軍は期待できない。外交による解決も難しい……厄介ですね」
こうなると打てる手は限られてくる。
第一に考えなければいけないのは、村人達の安全だ。
通常は1週間もあれば他の街に避難させることができる。
しかし、今は護衛が圧倒的に足りていない。
まともに戦えるのは俺と、王女の護衛の騎士数人だけ。
これだけで百人を超える村人を守り切ることはできない。
攻めるよりも守る方が圧倒的に難しい。
途中、盗賊や魔物などに遭遇したらアウトだ。
絶対に犠牲が出てしまう。
「失礼」
会議に同席する騎士が挙手した。
「その……無責任な発言になってしまうのですが、アルム殿ならば千人の敵を迎え撃つのは可能ではありませんか? もちろん、我々も力の限りを尽くしますが……」
「……できないことはありません」
「「できるの!?」」
ブリジット王女を含めて、なぜか驚かれてしまう。
いや、質問をしてきたのはそっちだろうに。
「執事として、イベントの設置を手伝うことも多々ありましたからね。その経験を活かして、大勢の人を捌くことには慣れています」
「それと戦闘はまったくの別問題ではないかと……」
「ダメだよ、ダメ。アルム君を常識で図ろうとしたら、私達の方がおかしくなっちゃうよ……」
「それもそうですね……」
酷い言われようだった。
「ただ、援護が必要です」
「援護……ですか?」
「魔物が相手なら、なにも考えず、全力で暴れることができます。連中は知能が低いため、戦術を組み立てることは滅多にありませんからね。でも、人間が相手だと違います。戦術を組み立てて戦ってくるため、一筋縄ではいきません。同じ千だとしても、こちらの方が圧倒的に難しいです」
「故に、援護が必要ということですか……なるほど」
「でしたら、我々はアルム殿の力に……」
「……どれだけうまくいったとしても、犠牲が出てしまいます」
報告を受けてから今に至るまで、数百パターンの策を考えた。
しかし、どれも援護をしてくれる騎士に犠牲が出てしまうという結論に。
「俺が思い描く策は、あなた達騎士を犠牲として初めて成り立つものです。そんなものは……認めたくありません」
「……アルム殿……」
「とはいえ、どうしたものか……」
逃げることはできない。
立ち向かうことも難しい。
かといって、降伏はありえない。
困り果てた時、
「「「アニキ! 姉御!」」」
なんて?
妙な声が家の外から聞こえてきた。
会議室にしている家から出ると、ここに来る途中、襲ってきた盗賊……もとい元帝国軍人達がいた。
「君達は……」
「事情は聞きました。俺達の力を役に立ててください!」
彼らは王都に向けて連行されていたが……
人数が人数なので時間がかかっていた。
そこをブリジット王女の伝令が追い越す形になり、今回の事態を知ったらしい。
どうするか迷っていたものの、帝国軍のありえない行動を聞いて、祖国を見限ることにした。
そして、騎士達を説得して、駆けつけてきてくれたという。
「おぉ……まさか、こんな熱い展開が待っているなんて。やばい、激アツだよ」
「ブリジット王女、正規の手続きなしに彼らを雇用することは問題ですが、しかし……」
「うん、大丈夫。わかっているよ」
ブリジット王女は不敵な笑みを浮かべて、元帝国軍人達に向き直る。
「諸君らに問う! 我らが敵とするのは帝国だ。しかし、諸君らは帝国軍人……祖国を敵とする覚悟はあるか!?」
「「「はい!」」」
「よろしい。しかし、これは血を得るための戦いではない。民を守るための戦いだ。奪うのではなくて守る……それは、己の命も含まれている。そのことを理解しているか!?」
「「「はい!!」」」
「ならば共に戦おう! 本来、戦争に大義なんてものはない。正義もない。しかし、今回は違う。なんの罪もない村人とその故郷を守るために戦うのだ。これが正義と言わずなんと言う? 故に、諸君らは全力で戦うといい。この私、フラウハイム王国が第一王女、ブリジット・スタイン・フラウハイムが見届けようではないか!!!」
「「「はいっ!!!」」」
「共に血を流し、涙を流そう! その果てに得られるものは、人々の笑顔と平和だ。だがしかし、それこそがかけがえのない報酬である! 故に、私は立ち向かう。悪に立ち向かう。徹底的に! 行くぞ、諸君!!!」
「「「おぉおおおおおぉ!!!」」」
実に堂々とした演説だ。
元帝国軍人達……そして、護衛の騎士達の戦意は限りなく高められた。
それだけではなくて、王国の騎士達の士気も最高潮に達していた。
さすがだ。
俺ではこうはいかない。
ブリジット王女……俺は、あなたに仕えることができてよかった。
今、心の底からそう思っている。
――――――――――
作戦を練り。
戦いの準備を進めて。
そして、帝国軍との激突が明日に迫る。
「ふぅ」
村の入口に立つ。
この山を登る道を進んで、帝国軍が攻めてくるだろう。
決戦は明日。
できる限りのことはしたが、どうなるか……
「アルム君」
振り返るとブリジット王女がいた。
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