218話 画期的な発明
一度、エネルギーを使い切った魔石は、ただの綺麗な石になる。
なんの力を持つことはない。
用途はなくなり、せいぜいが、新たに加工されて装飾品として売られるくらいだ。
しかし、シロ王女は、画期的な発明をした。
使い終えた魔石に、新たにエネルギーをチャージする方法だ。
その試作品が、この魔石だという。
「これは、一度、使い終わった魔石なのですか……? まさか、信じられない……見た感じ、どう見ても新品なのですが……」
「ふっふっふー♪ シロちゃん、渾身の発明なんだよ」
シロ王女がドヤ顔を披露した。
「いったい、どのようにして?」
「あ、それはね。魔石って、純粋なエネルギーの塊なんだけど、でも、一定の法則とバランスの上に成り立っていて、そこに新たな計算式を加えると……」
色々と説明してもらったものの、半分も理解することができない。
こういう話を聞く度に、やはりシロ王女は天才なのだな、と思う。
「……と、いうわけなの!」
「正直、半分も理解できませんでしたが……ただ、シロ王女が天才ということは理解いたしました」
「えへん♪」
再びのドヤ顔。
「これを開発するために、夜ふかしを?」
「うん。もうちょっとで完成する、って思ったら、なかなか止まらなくて……てへっ」
「気持ちはわからないでもありませんが……」
俺も、仕事で徹夜をすることがあった。
王国に来てから、そのようなことはほとんどないけれど、帝国時代は当たり前のようにしていた。
なので、あまりシロ王女のことを責められない。
「ただ、問題があるんだよね……」
「未完成なのですか?」
「ううん、完成しているよ。シロの頭の中だけだけど、設計図もちゃんとあるよ」
「なにが問題なのでしょうか?」
「……新型の魔石をどうするか、っていうこと」
シロ王女は憂い顔を見せた。
「魔石は魔物を狩ることで入手する。あるいは、特殊な地形にある鉱山で取れる。例外はあるけど……基本は、この二つだけ。だから、大事なエネルギー源として重宝されている」
「ええ、そうですね」
「魔石のエネルギーは、大体、魔道具に使われていることが多いよね? 大きなものだと、結界とか地脈の管理とか。小さなものになると、みんなが使う生活用品。でも、魔石がそこそこ貴重だから、魔道具がたくさん流通することはない」
ふむ。
なんとなく、シロ王女の言いたいことがわかってきた。
「でも、この新型の魔石があれば、一気に現状を変えることができる。エネルギー問題が解決して、たくさんの魔道具を流通させることができる」
「そうすれば国は発展するかもしれませんが……」
「その分、大きな歪みができちゃうかもしれないの」
文明は、ゆっくりと発展していくものだ。
大きな改革なんてものは、そうそう起きるものではない。
しかし、シロ王女の新型の魔石は、それに匹敵する。
今まで以上に、誰もが気軽に魔道具を使えるようになれば?
生活は間違いなく豊かになるだろう。
ただ、誰もが良いことを考えるとは限らない。
新しいエネルギーを独占しようとする者が出てくるかもしれない。
民のためではなくて、己のために悪用する者が現れるかもしれない。
そんな危険性がある。
「国のことを考えるなら、すぐにパパに教えないとなんだけど……でもでも、みんな、きちんと扱ってくれるかどうか……あーうー」
シロ王女はとても悩んでいる様子だった。
というか……
すごいな。
この歳で、そこまで先のことを考えられるなんて。
さすが、ブリジット王女の妹、といったところだろうか。
いや。
それはシロ王女に失礼か。
ブリジット王女に関係なく、シロ王女は素晴らしい知識を持つ。
それをきちんと見なければ。
「お兄ちゃんは、どうするのが一番だと思う?」
「そうですね……」
しっかりと考えてから口を開く。
「まずは、信頼できる方だけに話をしましょう。ゴルドフィア王にブリジット王女にパルフェ王女……このようなところでしょうか? みなさま方にも秘密をおっしゃいましたが、しかし、信頼できると思います」
「うん……うん、そうだよね」
「その上で、この技術をどうするべきか? リスクを負うけれど、公開するべきか。それとも、今は早いと封印するか。しっかりと話し合うべきかと」
「うん……うん、そうだよね! お兄ちゃんに相談してよかった! ありがとう、お兄ちゃん♪」
シロ王女は抱きついてきて、えへへと天使のような笑顔を見せるのだった。