217話 シロちゃんの悩み
「んー……」
昼を食べるため、城内にある食堂を訪ねて。
その後、食後の散歩をしていたら、庭園でシロ王女を見かけた。
どこかぼーっとした表情で、花を見つめている。
いつも元気なシロ王女があんな顔をしているのは、かなり珍しい。
なにか悩み事だろうか?
「シロ王女」
気がつけば、俺は彼女に声をかけていた。
「あっ、お兄ちゃん。おはよう」
「はい、おはようございます。もっとも、今は昼ですが」
「あ、そういえば……シロ、さっき起きたばかりだから、ちょっと時間の感覚がおかしくなっているかも」
「さっき、ですか?」
昼まで寝ていた、ということになるが……
「やけに遅いですね? ちゃんと、規則正しい生活を送っていますか?」
「うっ……お兄ちゃんが、シロの専属みたいなことを言う……」
夜ふかしをしていたという自覚はあるらしく、シロ王女は逃げるように視線を逸らした。
よくよく見てみれば、少しだけ目の下にくまができていた。
かなり遅くまで起きていたのだろう。
いや、待て。
1日だけで、そうそうくまはできない。
数日間徹夜するか、あるいは、寝不足が常習的に続くか。
俺の経験談だ。
「もしかして、最近、眠れていませんか? あるいは、日常的に夜ふかしを?」
「え、ええっとぉ……」
たらり、とシロ王女が汗を流す。
これは、たぶん、後者だな。
「いけませんよ。なにをしているかわかりませんが、寝不足はダメです。特に、シロ王女のような歳ならば、なおさらです。慢性的な睡眠不足は、健康的な体だけではなくて、成長も妨げることになります」
「うぅ、お兄ちゃんがパパのようなことを言う……でもでも、理由があるんだもん!」
「理由……ですか?」
シロ王女は幼い。
しかし、見た目に反して賢い。
なんとなく、で夜ふかしをするような人ではない。
「どのような理由なのか、教えていただくことは?」
「えっと……」
迷うように視線を揺らす。
ややあって、俺のことをまっすぐに見た。
「内緒にしてね? お姉さま達にもパパにも内緒だよ?」
「わかりました」
即答する。
シロ王女に直接、仕えているわけではないが……
しかし、この国の王女で、敬愛する主の妹だ。
彼女と交わした約束を破るなんてこと、絶対にありえない。
「これを見てくれる?」
シロ王女は、日頃、よく持ち歩いているぬいぐるみタイプのポーチから、とあるものを取り出した。
「これは……魔石ですか? 加工済みのようですね」
魔石というのは、魔物を討伐した際、たまに手に入れられるものだ。
魔物が持つ魔力が結晶化したもの。
その魔物の強さにもよるが、大抵の魔石は強い力が込められている。
魔石は魔道具を動かすために必要なもの。
文化的な暮らしをするためには欠かせないものなのだけど、魔物を討伐しても、必ず手に入るわけではない。
また、手に入れたとしても、力が弱く、使い物にならない場合もある。
さらに付け足すのならば、魔石のエネルギーは無尽蔵ではない。
量が定められていて、一定期間で使い切ってしまう。
故に、魔石は貴重品だ。
高価で取り引きされていて、なおかつ、数も制限されている。
「その魔石、どう思う?」
「とても綺麗な魔石ですね。エネルギーの純度も高い。かなり高価なものだと思いますが、シロ王女は、どこでこれを?」
「それ……再利用品なの」
「え?」
シロ王女は、さらりととんでもないことを口にした。