216話 誘惑? 素?
「パルフェ王女」
離れの研究室を訪ねて、扉をノックした。
反応は……ない。
「ふむ?」
本日は、パルフェ王女の要請を受けて、サポートをすることになっていた。
この時間にやってくるように言われたのだけど、しかし、ノックに反応してくれない。
パルフェ王女は適当なところがあるものの、ただ、己が進めている研究に関しては、どこまでも真面目て情熱的だ。
その研究のサポートが関わるというのに、予定を変えて留守にするということはあるだろうか?
「もしかしたら……」
なにかしらの事故。
あるいは突発的な病で、中で動けなくなっているのかもしれない。
「失礼します!」
常に最悪の事態を想定するべきだ。
そう判断した俺は、解錠して、扉を開けた。
中は、いつも通りあちらこちらに物があふれていた。
……これがいつも通り、というのも微妙な話だ。
隙を見ては掃除をしているのだけど、翌日には、すぐに散らかっているんだよな。
「パルフェ王女!」
中で倒れている、ということはない。
ただ、姿も見えない。
もしかして、誘拐……?
俺やヒカリの探知をくぐり抜けるほどの手練れがいたとしてもおかしくない。
まずいな。
そうだとしたら、すぐに動かないと手遅れになる可能性が……
「おや?」
「パルフェ王女!?」
振り返ると……
タオルを一枚、身につけているだけで、他になにも着ていないパルフェ王女と目が合った。
しばしの硬直。
ややあって我に返り、慌てて回れ右をした。
「失礼いたしました!」
「どうして、こんなところにキミが? あ、つまらないものを見せちゃったね」
「いつものように研究の手伝いをするためにやってきたのですが、返事がなく……なにかしらの事故や事件を疑い、中に入らせていただきました」
「あー……そっか、そうだった。ごめん、すっかり忘れてて、シャワーを浴びていたよ。はっはっは」
パルフェ王女は陽気に笑う。
そうだよな。
こういう人なんだよな。
……はぁあああ。
心の中で盛大にため息を吐いた。
「もういいよ」
「はい、わかり……パルフェ王女!?」
言われて振り返るのだけど、パルフェ王女は、やはりタオルを巻いただけの姿。
慌てて、再び回れ右をした。
「ん? どうかした?」
「どうかした、ではありません。早く服を着ていただけませんか?」
「んー? でも、ボクの裸なんて見ても嬉しくないだろう?」
「そういう問題ではありません」
というか……
あくまでも一般論ではあるが、パルフェ王女は魅力的な女性だ。
やや変わった性格をしているものの、その容姿、体は他の女性にないものを持っている。
その裸を見られるとなれば、多くの男性がなんでもするだろう。
「んー……えいっ」
がばっと、背中から抱きつかれてしまう。
「パルフェ王女!?」
「ほらほら、どうだい? 貴重な王女の裸のハグだよ?」
「……からかうのはやめてください」
「キミは、ボクの裸を魅力的だと思ってくれているんだろう? なら、こうしたらどうなるかな、という貴重な実験さ!」
ろくでもない!
「ほらほら。興奮する? ムラムラしちゃう?」
「パルフェ王女、その辺りに……」
「ボク、これでもけっこう胸はあるんだぜ?」
よし。
「失礼します」
「へ?」
目を閉じて、なるべく触れないようにして……
パルフェ王女の抱擁をすっと抜け出すと同時に、彼女の体を掴んで、近くのソファーの上に倒す。
その上で、もう一枚、別のタオルをかぶせた。
「王女として、ふさわしい行動をお願いします。あまり度が過ぎるようなら、こうして、力技に出てもいいとブリジット王女から許可をいただいていますので」
「むぅ……」
「それと……あなたは本当に魅力的なのですから、惑わすのはやめてください」
「お、おぅ……」
「外で待機しているので、服を着たら呼んでください」
俺はそう言い残して、研究室を後にした。
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一人、残されたパルフェは、ソファーの上でしばらくぼーっとする。
「……やば、かっこいい」
色々な意味で悶えることになるのだけど、それはまた別の話だ。