214話 殺ろうか
「よぉ、殺し合わないか?」
「……」
昼。
仕事の都合で城内を移動していると、セラフィーと出会い、いきなり物騒なことを口にされた。
「……それはどういう意味だ?」
「いや、そのまんまだよ。殺し合おうぜ」
「……造反か?」
「あん? なんでそうなるんだよ」
逆に聞くが、なんでそう考えないと思った?
「別に、殺し合いたいだけで、ここの国を捨てるつもりはないぜ? 忠義なんて傭兵には意味ないけどな。ま、それでも、ここは居心地がいいからな」
「なら、どうして殺し合いになる?」
「ヒマだろ」
ヒマで殺し合いをするバカがどこにいる?
「ちっとは体を動かしておかないと、鈍るからな」
「……待て。それは、実戦訓練をしたい、という意味なのか?」
「それ以外になにがあるんだよ?」
「それならそうと、わかりやすく言ってくれ……」
「?」
セラフィーは、本気で意味を理解していない様子で小首を傾げた。
彼女の中では、これ以上ないほどわかりやすかったらしい。
まあ……
よくよく考えてみれば、彼女は生粋の傭兵だ。
戦闘の中に身を置いて育ってきた。
だからこそ、戦いは当たり前のように隣にいて、それを普通に扱うことになんの疑問も抱いていないのだろう。
頼もしいといえるが……
しかし、危うくもある。
戦うことしか知らないのでは、いずれ、心の芯がズレていくのでは?
「……わかった」
「おし!」
「ただ、その前に俺の頼みを聞いてもらえるか?」
「あん? なんだよ、それ」
「簡単なものだ。ついてきてくれ」
セラフィーと一緒に食堂へ移動した。
そして、パフェを注文する。
「なんだよ、飯か?」
「いや。これは、奢りだ。食べてみてくれ」
「なんでだよ?」
「いいから」
戦い以外の楽しみを見つければ、危ういところがなくなるかもしれない。
そう考えて、まずは単純に、食の楽しみに気づいてほしいと、ここに連れてきた。
「あー……これ、どう食えばいいんだ?」
「パフェを食べたことないのか?」
「こんなやわな食べ物、食ったことねえよ」
やわな食べ物ってなんだ?
食べ物に根性がないとかあるとか、そんな概念あったか?
戦闘民族すぎる。
「普通にスプーンですくって食べればいい。あと、あまり散らかしたり汚したりしないように」
「そっか。オッケー」
セラフィーは気軽に頷いて、パフェを食べた。
「!?!?!?」
ものすごく驚いている。
「ど、どうしたんだ……?」
「な、なんだ、こりゃ……すっげーーーーーうまいっ!!!」
子供のように目をキラキラと輝かせていた。
これだけ見ると、普通の女の子みたいだ。
「そ、そうか……気に入ってくれたみたいでなによりだ」
「おかわり頼んでもいいか!?」
「もう食べたのか!? 早いな!?」
「うまいからな!」
「まあ、問題ないが……」
追加のパフェを注文して。
セラフィーは、それをあっさりと完食して。
別のパフェを注文して。
そちらも、一瞬で食べて。
そんなことを繰り返すこと、しばらく。
セラフィーの周りには、たくさんの空になった容器が。
「はー……食べた食べた。マジうまいな。めっちゃ満足だぜ」
「そうか……」
「じゃ、またな」
食べるだけ食べたら満足したらしく、セラフィーはどこかに行ってしまう。
この様子なら、戦うことだけではなくて、食べることに興味を向けてくれるかもしれない。
しれないのだけど……
「大きな代償だったな……」
軽くなった財布を手に、俺はため息をこぼすのだった。