212話 一件落着なのだけど……
「おつかれさま、アルム君」
「ブリジット王女こそ」
事件から2日。
後処理も終わり、俺とブリジット王女は、ようやく長い執務から解放された。
ドレイクは逮捕。
捕まっていた子供達は無事に助けることができた。
ハッピーエンドと言っても問題のない結末だ。
「いつものように後処理は大変だったけど……んー! でも、無事に解決できてよかった」
「そうですね。子供達に大きな怪我がないのが幸いです」
「うん、そうだね。あの時、アルム君の作戦に乗ってよかった」
自らを囮にするという、強引な策。
俺だけならば問題ないが、証人を必要とするため、ブリジット王女も巻き込んでしまった。
彼女の執事として、主を危険に晒すような行為は失格だ。
やってはならないこと。
でも……
今回は、それでよしと思えた。
なぜなら、今、ブリジット王女が笑顔だから。
彼女の性格からして、子供達を救わないという選択肢は絶対にない。
それどころか、一分一秒でも早く助けたいと願うだろう。
その願いを察したからこそ、俺は、策を提案した。
そのまま実行した。
主の身を案じるのは当たり前のことではあるが……
それだけではなくて、真に望むこと、願っていることを叶える。
それが執事というものだ。
「うーん……アルム君のそれ、なんか執事というよりは騎士に似ているかも」
「そうでしょうか?」
「うん。それっぽい感じ」
「むぅ……?」
よくわからないな。
俺の中の執事の『定義』は、ひょっとしておかしいのだろうか?
「お姉さま」
ふと、シロ王女がやってきた。
どうしたのだろう?
「いらっしゃい、シロちゃん」
「どうしたの? シロになにか用?」
シロ王女は、こてんと小首を傾げた。
呼ばれた理由を聞いていないらしい。
俺も、彼女が呼ばれる理由に心当たりがない。
ただの雑談だろうか?
「大した用じゃないんだけど……ちょっと、すごくいいものを手に入れたから、まずは、その功績者であるシロちゃんに見せてあげようかな、って」
「???」
シロ王女は、さらに不思議そうな顔をした。
「なにかしたっけ?」と言いたそうな顔だ。
そんな彼女に、ブリジット王女はニヤリと不敵に笑い……
「ふっふっふ……これ、なーんだ?」
「ふぁっ」
ブリジット王女が取り出したのは、この前、シロ王女が開発した魔道具だ。
絵画の額縁をコンパクトにしたようなもの。
その場にある光景を瞬時に転写できるという、優れたものだ。
そこに、とあるメイドが描かれていた。
……俺だ。
「お、お姉さま! これって……お兄ちゃん!?」
「うん。やっぱり、シロちゃんならすぐにわかったね」
「うわー、うわー! お兄ちゃん、可愛い……可愛い!」
「ぶ、ブリジット王女……? いつの間に、そのようなものを……」
ブリジット王女は、てへっ、と笑う。
「メイドのアルム君、すごく可愛いから、これは絶対に残しておかないと! って思って、つい」
「いえ、その……消してもらえませんか?」
「「ダメ♪」」
姉妹揃って否定されてしまう。
事件を無事に解決することができた。
それは、とても喜ばしいことなのだけど……
その代わりに、俺は、なにかとても大切なものを失ったような気がするのだった。




