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21話 不審者

「不審者?」


 視察は終わり。

 さあ王都へ帰ろう……というところで、気になる話を得た。


「……うん……」


 相手は村の女の子だ。


「この前、村の近くにまっくろな人がいたの……すごいこわい感じで、うぅ……」


 そんな報告は受けていない、子供の言うこと……と切り捨てることは簡単だ。


 ただ、この子は勇気を振り絞り話をしてくれたのだろう。

 村の大人達は見間違いだろうと信じてくれず、俺達も信じてくれないかもしれない。

 それでも……と、がんばって話をしたのだろう。


「詳しく教えてくれませんか?」

「お兄ちゃん、信じてくれるの……?」

「ええ、もちろんですよ」

「ありがとう!」


 女の子が笑顔で抱きついてきた。


「むっ」


 なぜか、ブリジット王女が鋭い目になった。


「どうしたんですか?」

「べーつにー……」

「ふむ……もしかして、この子に嫉妬しているんですか?」

「ふぇ? お姉ちゃん、私がお兄ちゃんにくっついたから怒っているの?」

「ち、ちちち、ちゃうわい!?」


 ものすごく動揺していた。


 そんなブリジット王女に、女の子はにっこりとわらいかける。


「なら、お姉ちゃんもいっしょにぎゅってしよう?」

「え?」

「いっしょに、ぎゅー!」

「そ、そうだね……うん。仕方ないなあ、そんなに強く言われたら断れないなあ」


 強くは言っていないと思うのだけど……


「はい、アルム君。ぎゅー!」

「ぎゅー♪」

「えっと……勘弁してください」


 二人に左右から挟まれて、俺はすぐに降参してしまうのだった。




――――――――――




「ふむ」


 女の子から聞いた情報をまとめると、以下の通りだ。


 数日前、村の近くの森に黒装束の男がいた。

 女の子は特別目が良いため男に気がついた。

 その後、男を見かけることはないが、嫌な感じが消えないという。


「アルム君、今回の件はどう思う?」

「他国のスパイという可能性が高いんですけど……」


 どうしてこの村に?


 こういうのもなんだけど、この村に戦略的な価値はない。

 国境に近いものの、王都から馬車で一週間もの距離が離れている。

 それに砦などもないため、村を落としてもまるで意味がない。


 強いて理由を挙げるならワインだ。

 村のワインは貿易でも利用されるほどで、各国で高い人気を得ている。


「でもさでもさ、ワインが理由でスパイを放つ理由なんてないよね?」

「ですね。王国との関係があれば普通に買えるわけですから。いえ、なくても買えますね。王国からワインを輸入して、さらにそれを売り捌くところはあるでしょうし」

「じゃあ、ワインがたくさん欲しい、独占したいからスパイを放っていた、っていう線はどうかな?」

「レシピを盗むんですか?」

「ううん、村を奪ってワインを作らせるの。そのための偵察」

「ははは、そんなバカな考えをする人なんていませんよ」

「だよねー、バカすぎるもんねー」




――――――――――




「王国にある村を落として、そこにあるワインを独り占めするわよ!」


 バカがいた。


 その名は、リシテア・リングベルド・ベルグラード。

 帝国の皇女だ。


「王国のワインって美味しいけど、数が少ないのが難点よねぇ。あちらこちらに輸出しないで、帝国にだけ下ろせばいいと思わない?」

「はい、皇女様のおっしゃる通りかと」

「でしょう? だから、ワインを作っている村を落とせば、問題は全部解決すると思わない? ワイン、全部独り占めできるわ」

「しかし、王国と開戦することになるやもしれず……」

「平気よ。偶然、所属不明の部隊が村を襲って、偶然、そこで手に入れたワインが帝国に流れてくる。偶然よ♪」

「なるほど、さすがでございます」


 実際のところ、そんな言い訳が通るわけがない。

 帝国軍が王国の村を襲撃した場合、宣戦布告に等しい。


 いや。

 宣戦布告なしに領土に侵入して村を攻めるのだから、最悪だ。

 事が露見すれば、各国からの激しい非難は免れないだろう。


 その答えに辿り着くことができない。

 リシテアという皇女の限界というか、底の浅さが知れる。


「とはいえ……最近の軍はだらしないから、ちょっと心配なのよね」

「皇女様の懸念はもっともかと。ですので、徴兵をして、戦力を五倍にしておきました」

「おー、やるじゃん♪」


 実際のところ、まったくやらない。


 立て続けに事件が起きて、帝国の内政はガタガタだ。

 そんな状況で強制的な徴兵が行われれば、民の反感を買うに決まっている。

 それに生産力も落ちて、さらに内政がズタボロになる。


 皇女の新しい執事がしたことは、わりと『最悪』な手だった。


 それを褒めてしまうあたり、リシテアの頭の具合もうかがえるというもの。


「んー……なら、完璧に成功させるためにもあたしが同行するわ」

「え、皇女様が?」

「そう、このあたしが陣頭指揮をとるの。それなら絶対に負けることはないでしょう? それに、兵士達を鼓舞することもできる。一石二鳥っていうやつよ」

「素晴らしいアイディアです!」


 こちらも最悪のアイディアだ。

 よほどのことがない限り、皇族が戦線に参加するなどありえない。

 確かに鼓舞は可能だけど、間違って戦死でもしたら最悪すぎる。


 それに、皇女が参戦することで言い訳ができなくなってしまう。

 村を襲っているのは帝国軍である、と証明してしまうのだ。


 そのことに気づかない辺り、やはり、ダメダメな皇女であった。


「じゃあ、さっそく準備をしてちょうだい。スパイから集めた情報を元に、村に攻め込むわよ」


 こうして、底の抜けた桶のような脳を持つ皇女によって、王国の侵略が決定された。


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― 新着の感想 ―
[一言] スターリン以下だなこのバカ皇女は。
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