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206話 おまじない

 潜入調査4日目。


 あれから、俺とブリジット王女は調査を続けていた。

 メイドの仕事をしつつ、ドレイク伯爵の身辺を洗う。


 過去から今に至る経歴の調査。

 伯爵としても公務が正しく行われているかどうかの確認。

 プライベートの行動の把握。


 結果、まだ証拠は掴めていない。


 ただ、色々と気になるところはあり……

 少しずつグレーから黒に変わりつつある、というのが現状だ。


 これを確実な『黒』にしたいのだけど、時間がネックだ。

 残り3日で確たる証拠を押さえることができるのだろうか?

 なかなか難しい。


「……ブリジット王女」


 二人で昼食の準備をしつつ、念の為、周囲に聞こえないように小声で言う。


「このままだと失敗するかもしれません」

「うん……なかなか尻尾を掴ませてくれないね。あるいは、なにもしていないのか」

「まだ白と決めてしまうのは早いです。できる限りの調査をしましょう」

「そうだね。でも……うーん、なかなか手詰まりだよね」


 ブリジット王女の迷い、焦りは理解できた。


 潜入調査は、残り半分。

 それなのに大きな証拠を掴むことができていない。

 そこに至る道筋を立てることもできていない。


「少し無茶をします」

「え?」

「地下の調査を行おうかと」


 俺達は臨時で雇われたメイドだ。

 契約関係ではあるものの、そこに信頼関係はない。

 重要な仕事を任されることはなくて、簡単な仕事だけ。


 具体的に言うと、屋敷の掃除と食事の準備。

 食事の準備といっても、下ごしらえ程度だ。

 メインの調理は、専属の料理人が行う。


 そんな浅い仕事をしているため、深い部分に潜り込むことができない。


 これが長期の潜入調査なら、地道に努力を重ねて信頼を勝ち取り、秘密に近づいていく……という方法が取れるのだけど、1週間ではそうもいかない。

 このままだと俺とブリジット王女は、何事もなく帰されてしまうだろう。


 そうなるくらいなら、無茶をしてでも前に進むべきだ。


「地下、って……絶対に立ち入らないように、って念押しされていたところだよね?」

「いかにも怪しいと思いませんか?」

「そうだけど……でも、警備は厳重だよ?」


 地下の入り口は一つ。

 常時、二人の私兵が入り口を守っていた。


 様子を窺うために差し入れを持っていったことがあるのだけど……

 世間話には応えてくれたものの、地下に関する話は一切してもらえなかった。


 地下になにがあるのか、さっぱりわからない。

 だからこそ怪しい。


「安心してください。すでに、潜入経路は確保しています」

「いつの間に……まあ、アルム君だもんね。それくらいはしちゃうか」


 その納得の仕方はいかがなものか?


「じゃあ、私も……」

「いえ。ブリジット王女には、別のことをお願いしたいです」


 地下の調査に赴いている間、俺の姿は消えることになる。

 そのことを不審に思われるかもしれない。


「なので、うまいことごまかしてくれませんか? 例えば……俺について聞かれた場合は、貧血で部屋で休んでいる、とか。そんな感じに」

「そっか……そういうフォローも大事だよね。そして、それは私にしかできないこと」


 ブリジット王女は「任せて」という感じで頷いた。


「そういうことなら、地下の調査はアルム君に任せるね。フォローは、私に任せて」

「はい、お願いします」

「でも……」


 そっと、ブリジット王女は俺の手を握る。


「無理はしないでね?」

「それは……」

「アルム君なら、って思うところはあるんだけど……どうしてかな。以前よりも、なんだか心配性になっちゃって……もしも、とか。なにかあったら、とか。そんなことを考える時間が増えて、心配なんだ……」

「……ありがとうございます」


 ブリジット王女は、とても優しい人だ。


 より一層の忠誠を捧げようと思い……

 同時に、愛しくも感じた。


 俺の心配をしてくれている。

 そう思うと、ニヤニヤして飛び上がりたくなってしまう。


 しないけど。


「大丈夫です。俺の主は、あなた一人です。ですから、必ずブリジット王女のところへ戻ってきます」

「本当に……?」

「ええ、もちろん。約束します」

「……うん、待っているからね」


 ブリジット王女は笑顔を浮かべると、そっと距離を詰めてきて……


「……んっ……」


 そっと、俺の頬に唇を寄せた。


「えへへ」

「え、えっと……今のは……?」

「アルム君が無事でありますように、っていうおまじない♪」


 まいったな。

 これはもう、絶対に無事に帰ってくるしかないじゃないか。


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