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205話 思わぬ危機

 潜入1日目。


 初日は屋敷の構造を把握することに努めて、証拠探しは後回しにした。

 仕事をしつつ、屋敷の構造をしっかりと覚えて……

 屋敷で働いている他の人のことも覚えて……


 そうして初日が終わる。


 俺とブリジット王女は、用意された部屋に移動するのだけど……


「「……」」


 ほどほどの広さの部屋にベッドが二つ、横に並べられていた。

 ここが、アーガンハイド家で過ごす間、俺達の部屋となるのだけど……


「ふ、二人部屋なんだけど……」

「……みたいですね」


 よくよく考えれば当たり前だ。


 わざわざ、メイドのために個室を用意する者は少ない。

 ましてや、臨時で雇ったメイドとなると、相部屋になるのは当たり前だろう。


 とはいえ……


 これはまずい。

 まさか、ブリジット王女と同じ部屋で一晩を過ごすなんて。


 もちろん、やましいことは考えていない。

 彼女の信頼を裏切るようなことはしない。

 しかし、それを信じてもらえるかどうか……


「ねえ、アルム君」

「はい、安心してください。俺は決して、ブリジット王女に変な真似は……」

「……してもいいよ?」

「え?」

「ちょっとくらいなら、その……変なこと、してもいいよ?」


 ブリジット王女は顔を赤くしつつ、とんでもないことを言う。


 大丈夫ですか?

 錯乱していませんか?


 ついつい失礼な質問をぶつけてしまいそうになる。


「だって、その……私達、付き合っているし」

「それは……」

「だから、ちょっとくらいなら……なんて」


 ブリジット王女も恥ずかしいらしい。

 頬を染めて、視線をあちらこちらに泳がせている。


 ただ、チラチラとこちらを見て。

 その瞳に期待を滲ませていて。


 まずい。


 なんて……可愛いのだろう。

 これは反則だ。

 反射的に抱きしめたくなる。

 それを鋼鉄の意思で止めなくてはいけない。


 落ち着け、俺。


 いくらなんでも、そのような邪なことは……


 ……


 したくないと言えば嘘になるが!

 だがしかし、時と場所を考えなくては。

 いくらなんでも、潜入調査中にするようなことではない。


「……ブリジット王女」

「う、うん」

「落ち着きましょう。いくらなんでも、今はまずいです」

「そ、そうだよね……やっぱり、いけないことだよね」

「そういうことは、潜入調査の時ではなくて、もっとこう、別の機会にしましょう」

「え?」


 ブリジット王女がキョトンとなる。


「……してくれるの?」

「え、ええ」

「アルム君も、イチャイチャしたい?」

「それは……まあ」

「……えへへ♪」


 にっこり笑顔になる。


「そっか、そっか。アルム君、私にえっちなことしたいんだ♪」

「ちょっ……」


 とんでもないことを言わないでほしい。

 しかも、どうしてちょっと嬉しそうなんですか?


「いえ、あの、俺は……」

「したくない?」

「……ノーコメントで」

「ふふ、ごまかされちゃった♪」


 なんだかんだ、ブリジット王女は嬉しそうだ。


 怒られるか。

 あるいは、軽蔑されると思っていたのだが……

 そんなことはなくて、逆に喜ばれていた。


 なぜだ……?


 女性の心は複雑だ。

 とても難しい。


「今日はもう休もうか」

「えっと……相部屋でよろしいのですか?」

「仕方ないよ。個室をください、なんて臨時のメイドが言えるわけないし。そんなことをしたら、怪しまれちゃうかもしれないからね。これは仕方ないことなんだよ」

「はぁ」


 その割に、とても嬉しそうに見えた。


「ベッドは二つあるから、一応、問題はないんじゃないかな?」

「しかし、同じ部屋だと色々と問題が……」

「着替えをする時は、後ろを向いてくれると嬉しいかな」

「それはもちろん」

「……うーん」

「どうかされましたか?」

「ちょっとは見てもいいんだよ……?」

「ごほっ」


 思わず咳き込んでしまう。


「じょ、冗談はやめてください……」

「本気だったんだけど……でも、やっぱり、今はそういうことをしている場合じゃないよね。イチャイチャするなら、もっと落ち着いた時に……うん。がんばるぞー!」


 気合を入れるブリジット王女。

 うん。

 なにを考えているのか、本当にわからない。


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