203話 潜入調査
ブリジット王女はウィッグを被り、赤のショートヘアーになっていた。
それと、目元の印象を変えるためのメガネ。
服はやや派手に。
装飾品もほどほどに身につけていた。
普段の王女の姿とはがらりと印象が変わり、遊ぶことが大好きな貴族の娘、という感じになっていた。
やや強引ではあるものの……
ドレイク・アーガンハイドの家に潜入して、決定的な証拠を得る。
そんな策がヒカリから提案されて、俺達は、さっそく動くことにした。
こうしている間にも、奴隷などに被害が出ているかもしれない。
人命がかかっているため、のんびりとしていることはできない。
そのために変装をしたのだけど……
「……ぷっ」
「笑わないでください……」
変装した俺の姿を見て、ブリジット王女は、我慢できないといった様子で吹き出した。
その隣にいるヒカリとセラフィーも、どうにかこうにか笑い声は我慢しているものの、肩が小刻みに震えている。
ため息を一つ。
それから鏡を見ると……
黒髪のロングヘアーの女性が映る。
強いて魅力を挙げるのならば、凛とした表情だろう。
……俺だ。
「アルム君、似合いすぎ……ふふ」
「ですから、笑わないでください……」
「ごめんね。でも、とてもよく似合っているよ?」
「嬉しくありません……」
がくりと肩を落とす。
なぜ、女装をしているのか?
それは、アーガンハイド家に潜入するためだ。
最近、アーガンハイド家は短期でメイドを募集していた。
それを利用して、メイドとしてアーガンハイド家に潜入。
奴隷売買に関わっているという証拠を集める、というのが今回の狙いだ。
「まさか、執事だけではなくてメイドもやることになるとは……」
「アルム君なら、完璧にこなすことができると思うよ。あ、今はアルちゃん、だっけ?」
「くっ、殺してください……」
なんていう恥辱。
執事としてどんな問題にも対応できるように訓練を積んできたつもりではあったが、これは予想外だ。
うまく対処することができず、ぷるぷると震えてしまう。
「しかし……なぜ、ブリジット王女まで?」
そう。
今回の潜入調査、俺だけではなくてブリジット王女も一緒だ。
ブリジット王女は行動派で、よく城下町に繰り出しているものの……
だからといって、犯罪を犯しているかもしれない貴族の屋敷に潜入なんていうのは、いきすぎだ。
王女のとる行動ではない。
そのことについて、何度も提言したものの……
「上に立つ者として、やれることはやらないとね」
「そのために潜入まですると?」
「だって、他に適任者がいないから」
そうなのだ。
潜入のために色々な調査をしたところ、ブリジット王女が最適、という困った結論に至ってしまったのだ。
彼女は王女なので、色々な教育を受けている。
そのため、執務だけではなくてメイドとしての仕事もバッチリとこなすことができた。
一方、潜入メンバーの候補だったヒカリは、戦闘や諜報に長けているものの、メイドとしての能力はわりと難しい。
いくつかテストをしたものの、けっこうな頻度で失敗をしてしまい……
潜入以前に、そもそも雇われないのでは? という結論に。
他の候補も似たようなもので……
結局、ブリジット王女が最適という答えになってしまった。
「貴族と王族は似たようなものだからね。色々と役に立てると思うよ」
「それはそうかもしれませんが、しかし……」
心配だ。
「大丈夫」
「どうして、それほどまでに自信たっぷりなんですか?」
「だって、アルム君がいるもん」
「……」
「いざっていう時は守ってくれるよね?」
「もちろん」
惚れた弱味というやつだろうか?
ブリジット王女の言葉に頷くことしかできないのだった。