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199話 好きな人とならば

「好きにするといい」


 そのセリフは、幻聴かな? と思ってしまうほどあっさりとしたものだった。


「お前はいい大人だ。そして、儂がいない間も国をきちんと守ることができる、しっかりとした王族でもある。親としては、まあ、色々と口を出したいところではあるが……王としては、なにも言うことはない」

「えっ、と……本当に、それでいいの?」

「よい」


 どこか諦めた様子なのが気になるものの……


「ブリジット、お前は王族だ。婿をとらない、ということはありえない。いつか……というよりは、わりと近いうちに相手を選んでもらうことに決めていた。先の見合いも、そのためのものだ」

「お父様、そんなことを考えていたの?」

「当たり前だろう。王族ならば子を成して次世代を繋ぐ。その重要性が理解できぬほど愚かではないだろう?」

「それは、まあ……」


 王族の血を絶やすわけにはいかない。

 故に、王族に生まれたブリジット王女は、必ず結婚して、子供を産まなければいけない。

 仮に王子がいたとしたら、女性を娶るという、同じ道を歩むことになるだろう。


「でも、そうなるとしたら、お父様が私の相手を選ぶと思っていた」

「そのつもりだったが……止めた」

「え?」

「お前が心の底から好いた相手がいるというのなら、それでいい。無能が相手だとしたら困るが……そこの小僧は、そこそこ有能であるからな」


 ゴルドフィア王から認められるような発言をいただいて、俺は、思わず驚きに目を大きくしてしまう。


 かなり予想外の発言だ。

 実は認められていたなんて、欠片も思わなかった。

 なにせ、俺は普通の執事だからな。


「いやいやいや。アルム君が普通だったら、普通の基準がとんでもなく高くなっちゃうからね?」

「小僧の置かれていた環境は聞いたが、その自己評価の低さは改善しなければならないな」


 揃って呆れられてしまう。


 む……

 ここ最近は、己の思考を変えることができてきたと思っていたが、まだまだか。


「でも、お父様。私がこう言うのもなんだけど、アルム君は貴族でもなんでもないよ? それ、いいの?」

「構わん。貴族であれば優秀だ、貴族の血は尊い……なんてバカな考えを支持するつもりはない」

「それは、まあ……」


 ブリジット王女が苦笑した。


 ゴルドフィア王の言うことは理解しているものの、王であるあなたがそれを言ってしまうの? というような感じだ。


「仮に……ブリジットやパルフェ。シロ達が全て無能だとしたら、儂は、養子を迎えるつもりでいた」

「そんな……!?」

「落ち着け、小僧。仮の話だ。実際は、皆、優秀だ。そのようなことはせぬ」


 そう……だな。

 ゴルドフィア王は、そのようなことはしないだろう。


 ブリジット王女達のことになると、冷静さを失ってしまうな。

 俺は、まだまだ精進が足りない。

 もっともっと鍛錬を重ねて、己の体も心も魂も、全てを強くしないと。


「今以上にアルム君が強くなったら、とんでもないことになりそうだけど……」


 決意を固めていると、なぜかブリジット王女に苦笑されてしまった。


「それはともかく……私達のこと、本当に認めてもらえるの?」

「ああ、二言はない」

「……本当に?」

「くどいぞ」

「だって、あのお父様だもん。なにがなんでも天地がひっくり返っても認めるものかー! って、全力で叫びながら死ぬまでアルム君を追いかけ回すかと思っていた」

「うぐっ」


 娘からの酷い評価に傷ついたらしく、ゴルドフィア王がうめいた。

 ただ、そう言われるだけの心当たりもあるらしく、反論はできないようだ。


「と、とにかく」


 仕切り直すように、ゴルドフィア王が咳払いをした。


「ブリジットが好いた男と結ばれたいというのなら、それを無理に壊すつもりはない。幸い、そこの小僧はそれなりに優秀だ。相手としても問題はないからな」

「えっと……念押しの確認だけど、アルム君が平民なこと、そこは本当にいいの? 私はまったく気にしないけど……たぶん、お父様も気にしないだろうけど、うるさい人はうるさいでしょう?」

「ならば、ふさわしい爵位を与えればいいだろう。元々、それだけの功績は積んでいた。本人が拒んでいたため、先送りになっていたが……小僧は、いつでも貴族になれるだけの功績を積み上げていたのだ」

「言われてみると……」

「なので、大きな問題はないだろう。もちろん、細かい問題は残るが……そこは、二人でなんとかしてみせろ」


 ゴルドフィア王は、どこか疲れた様子だ。

 いや。

 疲れているというよりは、寂しそう……?


 俺とブリジット王女の関係を認めてくれているものの……

 本音は、やはり複雑なのだろう。

 本当は認めたくないのかもしれない。

 でも、王として、それ以前に一人の父親として、娘の幸せを一番に願い、自分の気持ちを押し殺している。


 そのことをブリジット王女も理解したらしく、優しい笑顔に。


 俺とブリジット王女は横に並んで、頭を下げる。


「お父様、ありがとう」

「ありがとうございます」

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