2話 さようなら
「あーもうっ、本当にいらつくわね、このバカっ!!!」
ガシャン!
今日も花瓶を投げつけられた。
そして、いつものように、当たり前になった罵詈雑言が飛んでくる。
「アルムってば、本当にバカなのね。どうして、こんな簡単なことがわからないの? 子供でもわかることでしょう? ねえ、なんで? なんでわからないの? あたしにもわかるように、どうしてわからないのか説明してくれる。あ、できないか。だって無能でグズのアルムだものね」
「……」
反論はしない。
ただ耐えるだけだ。
リシテアは癇癪を起こしているだけ。
政務で溜まったストレスを俺にぶつけているだけ。
……それだけ。
耐えればいい。
嵐が過ぎ去るのを待てばいい。
リシテアには恩がある。
彼女に拾ってもらった。
だから俺は、どんなことがあろうと……
「ったく、本当に使えないヤツ……こんな使えないグズを押し付けられるなんて、マジ最悪」
……今、なんて?
「あの……」
「なによ? なんか言い訳をしたいの? 無能の言い訳なんて聞く価値ゼロというかマイナスだけど、あたしは超優しい皇女様だから、特別に聞いてあげるわ。ほら、くだらない言い訳をしてみなさいよ」
「今の……押し付けられた、というのは?」
「ああ、それ? アルム……あんたのことよ」
「それは、どういう……」
「なによ、アルムだって知っているでしょう? あたしとあんたが幼馴染だからっていうくだらない理由で、あたしは、あんたのことを押し付けられたのよ。アルムみたいなグズを専属にするとかありえないのに、お父様とお母様がいいから、って言って……あーもう、ホントありえないわ。思い出しただけでもムカつく。アルムなんていらないのに」
押しつけられた。
つまり、リシテアは俺に救いの手を差し伸べたわけじゃない。
仕方なく俺を専属にした。
そして……
「アルムなんていらない」
その言葉が矢のように心に深く突き刺さる。
気持ち悪い。
気持ち悪い。
気持ち悪い。
リシテアは俺の使えなさに吐き気がするとよく口にするが、今は、俺が吐いてしまいそうだ。
目眩すら感じてしまい、立っているのがやっとだ。
俺は……
今までずっと勘違いをしていたのか。
リシテアに助けてもらったと思っていたけど、それは勘違い。
昔の思い出を美化していただけ。
本当は仕方なくで……
そして、欠片も必要とされていなかった。
むしろ忌避されていた。
「……ははっ」
感情がマイナスに突き抜けて、むしろ笑えてきた。
なんていうか、もう……
バカすぎる。
自分がとことん頭悪くて、その情けなさに笑ってしまう。
「ちょっと、なに笑っているの? っていうか、さっさと土下座して、土下座。それくらいしてくらいないと、あたし、まったく笑えないんだけど」
「断ります」
「は?」
「それよりも、大事な話があります」
「大事な話ぃ? グズの話に大事もなにもないでしょ。聞く価値ゼロよ、ゼロ。いいからさっさと……」
「今、この場限りで仕事を辞めさせていただきます」
「は?」
ぽかんと、リシテアが今まで見たことのない面白い顔になった。
ややあって、腹を抱えて爆笑する
「あはっ、あははははは! やばい、マジでウケる。ダメ、めっちゃお腹痛い、あはははははっ!」
「そんなに笑えることですか?」
「当たり前でしょ。あんたみたいなグズがここを辞めてどうするのよ? ここでちゃんと仕事もできないようじゃあ、他で雇ってもらえるところなんてないわよ? 野垂れ死ぬのがオチね」
「それでも、辞めさせていただきます」
「マジ?」
「マジです」
「ふーん……ま、いいわ。アルムの顔を見るのも嫌気が差していたからね。ちょうどいいかも。荷物をまとめて、さっさと出ていってくれる?」
「その前に手続きを……」
「そんなものいらないから。皇女の権限で省略してあげる」
「そうですか……では、今日から俺はあなたとは一切関わることはない、ということでよろしいですね?」
「はいはい、いいわよ。よろしいわよ。ってか、めっちゃスッキリするんだけど。あー、久しぶりに今日は快眠できそう。ふふ、最後の最後でいい仕事をしたわね。そこだけは褒めてあげる、グ・ズ♪」
本当、なにも変わらないな、この皇女様は。
怒りよりも呆れの方が強い。
「今までお世話になりました。では、さようなら」
……こうして、俺は幼馴染の皇女と絶縁した。
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