197話 バレた
「……なるほど。ゴルドフィア王が俺を連れ回したのは、ブリジット王女達が手を回したからなんですね」
話を聞き終えて、納得した。
俺とブリジット王女の関係を正式なものにするにあたり、最大の障害はゴルドフィア王だ。
王は娘を溺愛しているため、まず間違いなく反対されるだろう。
そこでブリジット王女は、まず、俺という個人を認めてもらおうと思ったらしい。
一緒に仕事をすることでゴルドフィア王に認めてもらい……
その流れて、恋人関係も認めてもらう、というのが今回の作戦らしい。
「良い案でしょ?」
「はい、そうですね。ただ……」
それなりにゴルドフィア王に認められたような気はした。
とはいえ、ブリジット王女との交際を認めてくれるかというと、それはまったくの別問題のような気がした。
まず、身分が違いすぎる。
ただの執事と王女では、あまりにも釣り合いがとれていない。
「アルム君は、『ただの』執事じゃないと思うよ?」
「む」
俺のような執事は、そこら辺にたくさんいると思うが……
「アルム君がたくさんいたら、大陸を支配できるかもね」
「まあ、それはともかく」
二つ目の問題として、ゴルドフィア王は娘達を溺愛している。
それはもう、目に入れても痛くないほどに可愛がっている。
それなのに、ブリジット王女と交際させてください、なんて言ったら?
「……刃を持つ王に追いかけられる未来が想像できますね」
「まさか。さすがのお父様もそこまで……するかもしれない」
ブリジット王女は深刻な顔になった。
「うーん……どうしよう? それ、本気でありえそう……」
「ですよね……」
「お父様も、アルム君のことは認めてくれているとは思うんだよね。なんだかんだ言っても。ただ、ちょっと子離れができていないから……」
「難問ですね」
はぁ、と二人でため息をこぼす。
ちょんちょん。
うん?
今、肩を叩かれたような?
不思議に思い、振り返ると……
「小僧、ここにいたか」
ゴルドフィア王がいた。
ぶわっと、嫌な汗が湧き上がる。
「……どのような御用でしょうか?」
「先の小僧の案で、確認しておきたいところがあってな」
「そういうことでしたら、お呼び出ししていただければ……」
「なに。たまには、儂の方から出向くのも悪くないだろう」
ブリジット王女もだらだらと汗を流していた。
ゴルドフィア王を直視できないらしく、寝違えたのかと思うくらい、明後日の方向を向いている。
「……例の件でしたら、このように資料をまとめています」
後で提出しようと思っていた書類を渡した。
ゴルドフィア王はそれを受け取り、軽く目を通す。
「ふむ……悪くなさそうだな。精査は必要だが、問題なく承認されるだろう」
「ありがとうございます」
「なに。優秀な者の意見ならば、どのような者であれ、どのような内容であれ、無視することはできぬ。王として、当然のことだ」
おや?
これは、案外うまくいくのだろうか?
「ただ」
王の顔つきが変わる。
具体的に言うと、狩りをするように鋭く、殺気混じりの目になる。
「ブリジットとの交際を認めてほしい、という話については初耳だな」
そうだよな、うん。
やっぱり、聞かれていたよな。
「父親として、その話も具体的に、詳しく、きっちりと聞かないといけないと思うのだが?」
ゴルドフィア王は、ぐぐっと詰め寄ってきた。
腰に下げている剣の柄に手を伸ばして、引っ込めて、再び手を伸ばして……
ものすごい葛藤しているようだ。
ものすごくまずい。
これは、どうしたら……?