195話 王女達の訴え
「……やれやれ」
1日の仕事を終えたゴルドフィアは、ラフな格好に着替えてソファーに座る。
ワインを一口。
それとつまみのチーズを食べて、ため息をこぼした。
「あの小僧と一緒に仕事をして、これで3日……か」
本来、それは彼が望んだことではない。
優秀な執事と聞いているが、最近、どうも娘との関係が怪しいように見えた。
シロはアルムに懐いていて、お兄ちゃん、と呼んでいる。
人のことを実験体としか思わないパルフェも、アルムのことは別に捉えているようだ。
そして……
「ブリジットの様子がおかしい」
見合いを断り、帰ってきた。
それはいい。
喜ばしいことだ。
しかし、その時から、妙に落ち着かない姿を見せる時があった。
具体的に言うと、アルムが一緒の時だ。
なにやら、今まで見たことがない顔をする時がある。
なにかおかしい。
そう訝しんでいると、当のブリジットと……そして、シロとパルフェから直訴された。
アルムと一緒に仕事をしてみてほしい、と。
意味がわからない。
アルムと一緒に仕事をして、どうするというのか?
娘達は、いったい、なにを考えているのだろうか?
困惑するゴルドフィアだけど、娘達には甘い。
仕事をするくらいなら……と、その頼みを引き受けた。
「つまらない仕事をするようならば、追い出してやろうと思っていたが……まったく、忌々しい」
ゴルドフィアは、もう一杯、ワインを飲む。
アルムの仕事は完璧だった。
いや。
完璧を通り越して、完璧の中の完璧だ。
文句をつけるところはなに一つない。
それどころか感心してしまう始末。
仕事が早いだけではなくて、発想力もある。
物事の着眼点も鋭い。
ゴルドフィアでは思いつかないようなことを思いついて、臆することなく、大胆に進言してくる。
「ブリジットが贔屓にするわけだ」
いつだったか、ブリジットが自慢そうに私の執事はすごいんだよ? と自慢してきた時があった。
その時は、娘を取られそうになる焦りと嫉妬でアルムに強く当たり、彼のことをよく見ようとしなかったが……
なるほど、納得だ。
彼の能力ならば、贔屓されて当然。
ブリジットのお気に入りとなるのも当然。
「しかし、今回のことはわからぬな」
なぜ、娘達はアルムと一緒に仕事をさせようと思ったのか?
彼に対する評価を改めさせたかった?
ただ、ゴルドフィアはゴルドフィアで、密かにアルムことを評価していた。
ブリジットが絶賛するのだ。
ゴルドフィアは娘に甘いけれど、王でもあるため、意味なくブリジットを贔屓することはない。
無能に与える仕事はない。
ブリジットが優秀だからこそ、多くの仕事を任せている。
そんな彼女がアルムを称賛するのならば……と、ゴルドフィアも、密かにアルムことを少しは認めていた。
「ふむ……少しは認めていたが、少しでは足らん、ということか?」
なんとなくではあるが、娘達の考えが読めてきた。
ブリジット達は、ゴルドフィアとアルムを一緒に仕事をさせることで、彼の優秀さをきちんと理解してほしいのだろう。
なぜ、理解してほしいのか、そこは謎だが……
それが目的の一つであることは間違いないだろう。
「いいだろう」
ゴルドフィアはニヤリと笑い、さらにワインを飲んだ。
「ヤツがどれほどの男なのか、この儂が直々に、より深く見定めてやろうではないか。はっはっは!」
楽しそうに笑うゴルドフィアだけど……
その姿が悪の幹部に見えてしまうことに、まったく気づいていないのだった。