193話 王の隣で
「小僧、例の件はどうなっている?」
「西方に建設中の砦の件ですね? 現在、進捗率は30パーセントといったところです」
「遅いな」
「場所が場所なので、物資の輸送が難しく……それと、砦の建設はあえて遅らせています」
「なぜだ?」
「今更、同盟国側に砦を建設するメリットは低いので。それよりも、帝国が撒き散らした火種で被害を受けた村や街の補填の方が重要です」
「ふむ……まあ、いいだろう。では、次はこの書類をまとめて、チェックしておいてくれ」
「かしこまりました」
ゴルドフィア王から書類の束を受け取り、作業用の机に移動した。
ペンを手に取り、書類を一枚一枚、目を通していく。
……ブリジット王女専属の俺が、なぜ、ゴルドフィア王の専属のような真似をしているのか?
話は朝に遡る。
いつものように執事服に着替えて、仕事を始めようとしたら……
「小僧、今日は儂の仕事の手伝いをしろ」
と、問答無用でゴルドフィア王に連れて行かれた。
抗議をしても聞き入れてもらえず、強引に仕事を押しつけられる始末。
まあ、あらかじめ関係各所に連絡はしていたらしく、混乱は起きていない。
なので、素直に仕事をしているのだけど……
(いったい、どういうつもりなのだろう?)
こんなことは今までにない。
剣を向けられたことはあるものの、仕事を手伝え、なんて初めてだ。
王の考えていることはわからないのだけど……
とはいえ、これはこれで仕事。
手を抜くわけにはいかないと、いつものように集中して作業を進めていく。
「終わりました」
「は?」
書類をチェックしてまとめると、ゴルドフィア王がなぜか驚いた。
「嘘を吐くな。書類を渡して、まだ30分しか経っていないだろう」
「いえ、本当に終わりました。確認していただいても構いません」
「……本当に終わっているな。どうやった?」
「どうもこうも……」
一枚、1分で終わらせる。
そうすれば30分で完了だ。
「とても簡単な話ですよね」
「簡単なはずがあるか!? 儂でさえ、一枚処理するのに10分はかかるぞ!?」
「慣れていますので」
「むぅ……娘から、頭がおかしいくらいの実力、引いてしまうくらいの執務能力、とは聞いていたが、まさかこれほどとは……」
ブリジット王女?
ゴルドフィア王に、なんてことを吹き込んでいるんですか。
あと、表現。
ちょっと棘がありますよ、棘が。
「能力について、誇張された表現ではなかったということか……」
「えっと……?」
「……まあいい。ならば、次はこれを頼む」
「かしこまりました」
次は書類の山を渡された。
軽く拝見すると、同盟国に関するものが多い。
中には、国家機密に相当するようなものもあり……
「……あの」
「どうした?」
「このようなものを自分が見てよろしいのですか?」
「問題あるまい。それとも、その情報を手に他国へ渡るか?」
「まさか」
「そういうことだ」
……少しは信頼してくれているのだろうか?
だとしたら、嬉しい。
俺は気合を入れて、書類の整理とチェックに励んだ。
――――――――――
……結局、その日は、丸一日、ゴルドフィア王のサポートに追われた。
大変ではあったけれど、やりがいのある仕事だ。
心地いい充実感がある。
とはいえ……
「結局、王の真意はわからなかったな」
どうして、俺をサポートにつけたのだろう???




