190話 特権階級
「良い話があるんだけど」
「良い話……っすか?」
「うん。ヒカリちゃん次第なんだけど……アルム君の側室になるつもりはない?」
「「ごほっ!?」」
俺とヒカリは同時に吹き出した。
「なっ、ななな……」
「ブリジット王女……今、なんて?」
ヒカリは驚きのあまり固まっていた。
俺もそうなりたいところだけど……
まずは、なにがなんでも今の発言の真意を確かめないといけない。
「えっと……側室、と聞こえましたが」
「うん、言ったよ」
幻聴であってほしかった。
ブリジット王女はなにを考えて、こんなことを言い出したのだろう?
失礼極まりないのだけど、ちょっと、色々な心配をしてしまう。
……頭とか。
「ごめんね、アルム君。こういう話は、アルム君からしたら不快かもしれないけど……」
「それは……」
嘘は難しく、感情が表情に出てしまう。
なんていうことだ。
いつも冷静でいるように心がけているが、今は、とにかく感情を隠すことができない。
ヒカリが言っていたように、恋愛が絡むと俺はぽんこつになってしまうようだ。
「ただ、私はちゃんと考えて発言しているつもり」
「と、いうと?」
「ヒカリちゃんはとてもすごい力を持っていて……で、アルム君は、とんでもない執事。その血を私だけで独占しちゃうのはどうなのかなー、って」
「しかし、自分は王族でも貴族でも、なんでもないのですが……」
「私の恋人になったんだから、将来は王族だよ?」
ブリジット王女は、すでにそこまで考えていたのか。
俺はまだ、そこまで考えていない。
たぶん……この考えの差は、立場の違いからくるのだろう。
俺は、ただの執事。
主のことだけを考えればいい。
しかし、ブリジット王女は違う。
王族なので、常に未来のことを考えないといけない。
王国の行く先……
血筋のことも考えているのだろう。
「アルム君は王族になって……くれるよね?」
少し不安そうに尋ねてきた。
俺の答えを気にしているのだろう。
「もちろん。ブリジットのために、俺は、いつまでも一緒にいる覚悟だ」
今だけは『恋人』として答えた。
「ありがとう、アルム君」
「おぉ、アニキがかっこいいっす」
「と、いうわけで……アルム君が王族になる以上、その血はたくさん残さないとね」
「……ちょっと待ってください。この場合、残すべきはブリジット王女の血では? 俺は、確かに王族に入ることになるかもしれませんが、婿入りのようなもので……」
「うちは……フラウハイム王国は、王族の純血にそれほどこだわっていないの。王家に入った人は、その時点で王族であり、血は関係ない……っていう考え。そうでないと、血が近親者でまとまりすぎて、ちょっと危ないことになるからね。あと、血にこだわりすぎて有能な人を逃すのはダメな人のやること」
かなり割り切った考えだ。
その考えは正しいと思うが……
いざ実践できる人はなかなかいない。
王族ともなればなおさらだ。
「だから、アルム君の血をたくさん残さないと、っていう。私は……たぶん、アルム君以外の男性を好きになることはないから」
「……ブリジット王女……」
「ナチュラルにイチャつくの、ホント、やめてほしいっす……」
「え!? あっ、ご、ごめんね? そんなつもりはなかったんだけど、つい……あははは」
ブリジット王女は、困った様子で笑った。
笑ってごまかそうとした。
しかし、ヒカリのジト目は止まらない。
主にそんな目を向けてはいけないのだけど……
今は仕方ないかな、と味方をしてしまう。
「それで、ヒカリちゃんはどうかな?」
「どうもこうも……アニキは、それでいいっすか?」
「俺は……」
……正直、わからない。
血を残すため、という理由で恋人関係になることは無理だ。
そこまで割り切ることはできない。
ただ、ヒカリが俺を好いてくれているというのなら……




