19話 ウチにおいで?
盗賊の襲撃で足を止めることになった。
連中は全て縛り上げて、それから尋問。
必要な情報を得た後はそこら辺に放置だ。
風邪を引くかもしれないが、その辺りは知らないし、そこまでの面倒を見るつもりもない。
盗賊なんてやっていたのだから、殺されないだけマシだと思ってほしい。
まあ、裁判の後はどうなるかわからないが。
「ふむ」
尋問で得た情報を整理すると、非常にややこしい事態になっていることが判明した。
盗賊達は帝国の元騎士。
理不尽な解雇を受けて、その上で国外追放されたという。
先をまったく見通すことができず、やむなく盗賊に堕ちたらしい。
「アルム君、どんな感じ?」
「連絡はしたので、しばらくすれば国の部隊が連中を引き取ってくれるでしょう。それまでの間、縛り上げたとはいえ放置するわけにはいかないので、ここに留まることになります。視察は遅れますね」
「そっか、でも仕方ないね。ワインは残念だけど……じゅるり」
ものすごく残念そうだった。
食いしん坊王女?
「しかし……」
「なにか気になることでも?」
「連中、元帝国軍人らしいです」
迷った末に本当のことを話すことにした。
ブリジット王女は頭の回転が早く、視野がとても広い。
危険からは遠ざけたいものの、彼女なら俺が気づかないことに気づくことができるかもしれない。
出せる情報は出しておきたいので、素直に本当のことを伝えた。
「理不尽な理由で追放されて、それで盗賊に堕ちたらしいです」
「アルム君と似ているね……帝国では追放が流行っているのかな?」
「俺がいた頃は、そんなことはなかったと思いますけどね」
ただ、最近、帝国方面から流れてくる情報はきな臭いものがある。
国が荒れて、民の生活が困窮しているらしい。
その原因は……皇女リシテア。
彼女のわがままが国を傾けているとか。
ありえない、と普通なら思うのだけど、リシテアを知っている俺からしたら、なるほどと納得してしまう。
それほどまでに彼女の言動は酷い。
「ねえねえ、あの人達はどうなるの?」
「断定はできませんが……王国法に照らし合わせるのなら、相当に厳しい刑が待っているかと」
盗賊に堕ちた者は、基本的に労働奴隷か極刑の二択だ。
「まあ、自業自得ですね。それに掃除をしておかないと、どんどん汚れが溜まってしまいますから」
「掃除っていうところとか……たまに、アルム君ってすごーく怖いよね」
「そうですか? 普通だと思いますが……」
「アルム君が普通だとしたら、ヒャッハー、な世界の終わりっぽい光景になっちゃいそう」
「むう」
少しは言動を改めた方がいいのだろうか?
しかし、どうすればいいかわからない。
「それにしても、んー……」
先の言葉を受けて、ブリジット王女はなにやら考える。
ややあって、縛り上げられた盗賊達のところに向かい、にっこりと笑いつつ声をかけた。
「ねえねえ、君達? ウチで雇われる気はない?」
「「「は?」」」
盗賊達の目が丸くなる。
俺も驚いて目を大きくした。
「盗賊なんてやるよりも、軍人を続けた方がいいんじゃないかな? まあ、危険は軍人の方が高いかもしれないけどさ」
「あんた、王国の王女なんだってな……本気か?」
「うんうん、めっちゃ本気」
盗賊達の初仕事は俺達だ。
失敗したので、今のところ被害者はゼロ。
そして、情状酌量の余地がある。
なら味方にした方がお得だよね♪
……なんていうブリジット王女の心の声が聞こえてきそうだ。
「はっ。今更、王族に従うなんてこと、できるわけないだろう」
「俺達は王族ってやつが大嫌いなんだよ」
「そうだそうだ! 俺達は自由に生きる、なににも縛られることはない!」
「でも、誇りは守ることができるよ? 大事な人達に胸を張ることができるよ?」
「「「……」」」
ズバリ核心をついた言葉に、盗賊達は途端に言葉を失う。
「追放されたんだよね? なら、王族を嫌うのも仕方ないと思うんだけど、でも、だからって盗賊はどうかな? それ、本当に後悔しない?」
「そ、それは……」
「いつか、自分の人生を後世に語る時が来たら、どうするの? 盗賊をやっていました、って伝えるの? 自分の子供には? その子供にも?」
王族は嫌い。
自由に生きる。
その結果が盗賊だとしたら、彼らは両親や子供に自分の姿を見せることはできない。
盗賊に堕ちたところなんて、見せることはできない。
でも、軍人に戻れば?
確かな誇りを得ることができるのだ。
俺は正しいことをしていると、まっすぐ前を向くことができるのだ。
「最初は傭兵っていう契約でどうかな? で、あなた達が納得してくれたら、正式に王国の軍人として雇う。もちろん、不満があるのなら途中で抜けても構わない。でも、また盗賊をやるのは勘弁してほしいな。その時は、今度こそ厳罰にしないといけないから」
「……俺達に情けをかける、っていうのか?」
「うん」
「ちっ、安っぽい同情なんて……」
「同情に安いも高いもないよ。相手の気持ちに寄り添うこと、それが同情。私は、あなた達のことが可哀想だと思う。だから、手を差し伸べたい。これ、間違っているかな?」
「……」
間違っていない。
ブリジット王女は、助けたいから助ける。
人の優しさを表したような行動をとっているだけなのだ。
同情すると怒る人もいるが……
それはプライドを傷つけられたからだろう。
でも、俺に言わせればそんなものがどうした、だ。
プライドを守るために差し伸べられた手を跳ね除けるなんて、バカげている。
安い同情だとしても、相手は気にかけてくれている。
それを忘れてはいけない。
俺も幼馴染と絶縁して、それから追放されて……
そんな身だからよくわかる。
「……少し考えさせてくれないか?」
「オッケー。私達、ちょっと2週間ほど出かけるから、その間に決めてくれると嬉しいな。あ、それまであなた達の処分は待ってもらうように言っておくから、そこは安心してね」
「……感謝する」
すぐに受け入れることはできないのだろう。
それでも、考えることを捨ててはいない。
……もしも彼らが味方になったら、とても頼もしいかもしれない。
ふと、そんなことを思うのだった。
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