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187話 滑り、そして……

「月が綺麗だね」


 頬を染めて。

 瞳を潤ませて。


 ブリジット王女は、そっと、静かにそう言った。


「……」

「……」


 少しの沈黙。

 そして、俺は……


「そうですね、綺麗ですね」

「……え?」


 同意すると、なぜかブリジット王女が間の抜けた顔に。


「綺麗ですね、って……それだけ?」

「え? そうですけど……」

「……あれ?」

「どうかされましたか?」

「いや、だって、えっと……あれぇ?」


 ブリジット王女は、とても困惑している様子だ。

 なにかあったのだろうか?


「あの……アルム君。私、月が綺麗だね、って言ったんだけど」

「はい、ちゃんと聞こえました」

「……それだけ?」

「え?」

「え?」


 なにか、噛み合っていない。

 二人の間で、致命的になにかが噛み合っていない。


「な、な……」

「ブリジット王女?」

「なんでそんな反応なの!?」


 いきなり爆発された。


「私、ものすごい勇気を振り絞って、思い切って言ったのに、どうしてそんな冷静でいられるの!? 私のこと、なんとも思っていないの!?」

「え? いえ、あの……ど、どういうことですか?」

「だって、月が綺麗だね、って言ったんだよ!? それ、東の方の国だと、あなたのことが好きです、っていう意味じゃない!」

「えっ、そうなんですか?」

「知らなかったの!? えぇ!? アルム君ならなんでも知っているから、てっきり、知っているかと思ったのに! 精一杯、勇気を振り絞ったのに!」

「も、申しわけありません、不勉強でした……え?」


 ちょっと待て。

 今、ブリジット王女はなんて言った?


「今、好きって……」

「……あ」


 うっかりに気づいた様子で、ブリジット王女は、しまった!? というような顔に。


 ぷるぷると震えて。

 顔を赤くして。


「……そう、そうだよ! 私はアルム君のことが好き! 大好きなの! ええ、そうよ。好きよ、なにが悪いの!? もう!」


 逆ギレされた。


 いや、まあ。

 羞恥やら失敗やらで、そうするしかないのだろうが……


 ダメだ。

 笑いそうになってしまう。


 まさか、こんな形でブリジット王女の気持ちを知ることができるなんて。

 嬉しいやら自分が情けないやら、複雑な気持ちだ。


「うぅ……一生の失敗だよぉ……」

「自分は……失敗にしてほしくありません」

「え?」

「告白というものは、やはり、成功するのが一番ですから」

「それって……」


 覚悟を決めろ。

 なんて言えばいいかわからないとか、心が不安でいっぱいになってしまうとか。

 そんな情けない言い訳はここまで。


 俺は、俺のやるべきことをやろう。


「ブリジット王女」

「は、はいっ」


 こちらの雰囲気から、真面目な話であることを察したのだろう。

 ブリジット王女の背がピンと伸びる。


 なんだか、いつもと立場が反対だ。

 そのことが少しおかしくて、緊張が和らいだ。


「俺も……いえ。俺は」


 愛しい人をまっすぐ見つめて、


「あなたのことが好きです」


 想いを告げた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 告白できて良かったけどアルム、恋愛小説を読んで勉強した方が良いよ
[良い点] やっとですかやっとですかやっとですか…永かった…。でも、ようやく言った!ストレートに言わなきゃ伝わらない…。でも、やっと言った!
[一言] 成功!!あとは王族に婿入りするんだからハーレムハーレム!!妹二人と暗殺者と戦闘狂もお嫁さんに~
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