186話 夜の語らい
綺麗な夜空だ。
散りばめられた宝石のように星が輝いている。
その中で、明るい月が浮いているかのようで……
一つの芸術作品のようだ。
こんな日に散歩をすると、とても気持ちいいだろう。
「ブリジット王女!」
「あれ? アルム君?」
中庭に移動すると、わりと簡単にブリジット王女を見つけることができた。
さきほどと変わらない姿で、のんびりと中庭を散歩している。
「どうしたの、こんなところで?」
「えっと……」
顔を見たい。
話をしたい。
そんなことを考えていたのだけど……
いざ、ブリジット王女の顔を見ると、緊張で、考えていた台詞が全部吹き飛んでしまう。
ど、どうすれば……?
というか……
ヒカリが言っていたように、俺は、この方面は本当にぽんこつだな。
「えっと……散歩をしていたらブリジット王女が見えたので」
「アルム君も? 眠れない?」
「はい。ブリジット王女は……」
「私もなかなか眠れなくて」
ブリジット王女は苦笑して。
それから、こっちに手を差し出してきた。
「一緒に散歩しよう?」
「はい」
その手を取る。
そのまま二人で並んで歩いて……
いや、待て。
どうして自然に手を繋いでいるんだ?
なぜ、こんなことを……いやいやいや。
これは、本当にどういう状況だ?
どうして、ブリジット王女はこんなことを……
「……」
ちらりとブリジット王女の横顔を見る。
月明かりに照らされた顔はとても綺麗で……
そして、頬は朱色に染まっているように見えた。
照れている?
それとも……
「ねえ、アルム君」
「はい、なんでしょう」
「えっと、ね……その、なんていうか……」
「?」
ブリジット王女は、どこか煮えきらない態度だ。
言葉に迷っているというか、言葉を探しているというか。
どうしたんだろう?
普段とはまるで違う態度なのだけど……
「よし!」
パシン、とブリジット王女は自分の頬を張る。
「ぶ、ブリジット王女……?」
「大丈夫、気にしないで。今のは気合を入れただけだから」
「は、はぁ……」
「アルム君は、アルム君だから……やっぱり、私から行かないとダメだよね。そういうことを再確認したというか、そのために気合を入れたというか……うん!」
なんだろう?
不思議に思っていると、ブリジット王女が足を止めてこちらを見た。
いつになく真剣な表情だ。
もしかして……
お見合いに関する話だろうか?
受けることを決めた……とか。
嫌だ。
そんな話は聞きたくない。
それよりも、俺は、俺の想いを伝えないといけないのに……
「アルム君」
「は、はい……」
「その……今夜は、月が綺麗だね」
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新連載です。
『おっさん冒険者の遅れた英雄譚~感謝の素振りを1日1万回していたら、剣聖が弟子入り志願にやってきた~』
https://ncode.syosetu.com/n8636jb/
こちらも読んでもらえたら嬉しいです。