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183話 もう一つの想い

「はぁあああ……」


 深いため息。

 ヒカリのものだ。


「アニキって、なんでもできる完璧人間だったと思っていたっすけど、弱点もしっかりとあったんすね」

「なんのことだ……?」

「しかも、その弱点、今はけっこう致命的で……はぁあああ」

「だから、どうしてそんなため息をこぼす?」

「アニキって、こういうことはぽんこつっすね」

「ぽんこつ!?」


 なぜ、そこまで言われないと……

 というか、ヒカリがそんなことを言うのは初めてだ。


 ……反抗期?


「その……ヒカリは、なぜそんなことを思ったんだ? 俺のどこが悪い?」

「教えて身につくものじゃなくて、自分で気がつかないといけないことっす」

「自分で……?」

「まあ、すぐに解決するものでもないし……気付いたからといって、今度は、それからどうするか? っていう悩みが増えるだけなので、焦らない方がいいっすよ」

「よくわからないが……」

「わからなくていいっす」


 なんだろう?

 ヒカリがいつになく厳しい気がした。


 俺に見えてなくて、ヒカリには見えているもの。

 それは、いったいなんだろう……?


「ところで、アニキ」

「うん?」

「この際、もう自分も手段とか選ばないようにしよう、って思って」

「手段? なにに対して?」

「アニキのことっす」

「俺?」


 なんのことだ?

 というか、なんのことだ、と混乱するのは、今日、何度目だろう?

 色々なことが起こりすぎて、正直、頭がついていけていない。


 仕事で処理能力が落ちることはないのだけど……

 心の問題となると、まったくの別問題になるようだ。


 この新しい発見を喜ぶべきか。

 それとも、こんな状況に陥っていることを嘆くべきか。


「アニキ……ちょっと、聞いて欲しいことがあるっす」

「悩み相談か? わかった、なんでも話してほしい」

「悩みじゃないっすけど……いや。まあ、ある意味、悩みっすね」

「どんな話だ?」

「えっと……」


 なぜかヒカリは緊張していた。

 すーはーすーはーと深呼吸をする。


 ややあって、なにかを決意した様子で、じっとこちらを見つめてきた。


「その……自分は、アニキが……好きです」

「……え?」


 まったく予想すらしておらず。

 思わず幻聴かと思ってしまうくらいで。


 俺は今、とんでもなく間の抜けた顔をしていると思う。


「……」


 ただ、今のは幻聴ではない。

 確かな告白だ。


 その証拠に、ヒカリは顔を赤くしていた。


 元暗殺者で。

 出会った頃は、まったくの無表情で。

 そんなヒカリが、今は、耳までりんごのように赤くしていた。


「……冗談じゃないっすよ?」

「あ、ああ……それは、わかっているつもりだ。でも、どうして……?」

「自分は、アニキに助けられました」


 ヒカリは、そっと自分の胸元に手を置いて。

 そこに秘められている想いを一つずつ、言葉にしていく。



「自分は人を殺すことしか知らなくて、それ以外の世界を知らなくて、暗闇の中にいました。そんな自分を温かい、光のある世界に連れていってくれたのが、アニキです」


「驚きでした。世界は暗くて、じめじめしてて、悲しいことだらけで……そう思っていたから。それ以外のものがあるなんて思っていなかったから」


「でも、アニキが教えてくれました。世界はこんなにも明るくて、輝いているんだ、って。悪いこともあるけど、でも、それ以上に良いことがあるんだ、って」


「そして……自分に名前をくれました」


「空っぽの自分。殺すしか能のない殺人人形。そんな自分に……名前をくれました」


「その瞬間、自分は、ようやく人間になることができました。人を殺す装置じゃなくて、きちんと自分の意思を持つ、人間になることが」


「だから……そんなことをしてくれたアニキに、自分は、恋をしています」


「好きです」


「私、ヒカリは……アルム・アステニアのことを愛しています」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ドストレートな告白…。このくらいハッキリ言わなきゃ伝わらない!
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