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180話 本当に気まずい時は言葉が出てこない

「……」

「……」


 馬車の車輪の音がカタカタと響いていた。


 わずかに伝わる振動。

 王族が利用する最上級の馬車なので、その振動も極小だ。

 音もほとんど響いていない。


「……」

「……」


 だからこそ、余計に沈黙が目立つ。


 対面に座るのは、ブリジット王女。

 俺と護衛役のヒカリは、並んで座っている。


 俺は、ブリジット王女と目を合わせない。

 ブリジット王女もまた、俺と目を合わせることはない。


 ケンカをしているわけではないのだけど……

 ただ、見合いの話が出てからぎこちなくなり……

 そして、実際に見合いをするため隣国に向かう途中も、こうして気まずいままだ。


「えっと……」


 間にいるヒカリは、とても気まずそうだ。

 巻き込んですまない。


 でも、俺も、なにを話していいかまったくわからないんだ。


 そもそも、ブリジット王女の見合いも受け止めきれておらず……

 本当に、なにをどうすればいいのやら。


「……アルム君は」


 気まずい沈黙を打ち破ったのは、ブリジット王女だった。


 視線は合わせず。

 窓の外を見たまま、静かに問いかけてくる。


「今回の私のお見合い……どう思う?」

「どう、とは?」

「賛成とか反対とか……そんな感じで」


 なぜ、そのようなことを聞いてくるのだろう?

 俺の意見を聞いても仕方ないだろうに。


 それとも、俺の意見が気になるから……

 いや、待て。

 そういう楽観的、希望的な思考はやめるべきだ。


「……中立、でしょうか」

「え、なにそれ」

「これ以上はなにも」


 賛成できるわけがない。

 しかし、執事という立場なので、明確な反対を示すことはできない。

 中立というのは、今の俺が意見できる、ギリギリのラインだ。


「……そっか」


 ブリジット王女は、どこか満足した様子で頷いた。


「賛成じゃないんだ?」

「はい」

「反対っていうわけじゃないけど、でも、賛成っていうわけでもない。それはつまり……ふふ♪ うん、今は、その答えで許してあげるね」

「はぁ……ありがとうございます」


 ブリジット王女の機嫌が上昇した理由がわからない。

 俺が賛成しなかったのが嬉しいのだろうか?

 なぜ?


「……もしかして」


 考えて、とある可能性に至る。

 そう。

 ブリジット王女は……


 見合いに乗り気じゃないから、一人でも多くの味方を手に入れたかった!


 それが答えだな。


「アニキ」

「うん?」

「なんとなくアニキの考えていることを理解したっすけど、それは今、言わない方がいいっすよ。絶対に」

「あ、ああ……」


 妙な迫力を感じて、俺は素直に頷いていた。


 なにか俺はまずいことをしたのだろうか?

 あるいは、しそうになったのだろうか?

 考えてみるが、わからない。


「はぁ……」


 ブリジット王女が憂鬱そうなため息をこぼす。


 これは聞いても問題ないだろう。


「ブリジット王女は、今回のお見合い、どのように考えているんですか?」

「どうもこうも、困ったなー、っていう感じだよ。私、そんなことまるで考えていなかったのに」

「……なるほど」


 ほっとしてしまう俺がいた。


「だから、さっさとお見合いをして断って、それで帰るつもり」

「向こうはそれで納得するんでしょうか?」

「するんじゃないかな? ジーク王子も、そういうこと、考えてなさそうに思えたから……たぶん、向こうも私と同じで、周囲に言われて仕方なく、っていう感じだと思う。だから、話だけちょっとして終わり、っていう感じかな」


 再びほっとする俺。

 ブリジット王女にその気がないのなら、見合いが成立することはない。

 誰かのものになることはない。


 安心だ。

 ……そう思っていたのだけど。




――――――――――




「ブリジット王女、僕は、本気であなたのことを妻に迎えたいと思う」


 見合いの話で、ジーク王子は、そんなことを口にするのだった。

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