179話 なにしてくれんの?
「お・と・う・さ・ま?」
謁見の間。
ゴルドフィアは部下の報告を聞いていたが、そこにブリジットが乱入した。
目を逆三角形にして。
ドスンドスンと大型の魔物のような足音を響かせて。
「どうした、ブリジット。今、この者から農地改革に関する報告を受けて……」
「では、その後、少々、時間をいただけますこと?」
「……うむ」
……と、いうわけで。
30分後。
ブリジットとゴルドフィアは別室で話し合うことに。
普段は護衛の兵士やメイドなどが控えているものの、今は二人きりだ。
それだけ内密な話、ということになる。
「それで、どうした?」
「私がお見合いをすることになっているんだけど、どういうこと!?」
「なんだ、その話か」
ゴルドフィアは慌てることなく、冷静に言葉を返す。
「お前もいい歳だ。そろそろ結婚を考えるべきだろう」
「まだ早いから!」
「そうでもない。儂の子は、お前とパルフェとシロの三人だけだ。誰が女王になってもいいし、なんなら、婿を取り、その者を次期王としても構わない。ただ、簡単に決まるようなことではない。事が事だけに、長い時間がかかるだろう。故に、今から話を進めておかなければいけないのだ」
「それは……まあ」
ブリジットが結婚すれば、王位継承の話が絡んでくる。
故に、簡単に決められることではない。
周囲も納得させなければいけない。
だからこそ、時間が必要なのだ。
ゴルドフィアの話に一部納得するものの、いやしかし、とブリジットは反発した。
「だから、見合いを勝手に決めたの!?」
「そういう話がまるでないだろう」
「普段、お父様がこれでもかとばかりに目を光らせているのはなんなのよ」
「……それはそれ、これはこれだ」
やらかしていたという自覚はあるらしく、ゴルドフィアは気まずそうに目を逸らす。
「まあ、見合いは形だけのようなものだ。そのまま結婚しろ、などとは言わん」
「なら、見合いそのものを断りたいんだけど」
「王女は見合いなどをして、きちんと後継のことを考えている……そう示しておくべきなのだ。でないと、下手をすれば、パルフェやシロを担ぎ出そうとする輩が現れかねん」
「それは……」
長女であるブリジットが、王位継承にまったく興味を示さなかったら?
周囲は、王位を継ぐ気がないと勘違いするかもしれない。
そして、よりふさわしい者はパルフェだ。
あるいはシロだと言い出して、派閥が生まれ、争いが発生するかもしれない。
そのための見合いなのだ。
ゴルドフィアの懸念を理解して、ブリジットは怒りが収まっていく。
ただ、理屈はわかっても感情は納得できない。
胸のもやもやは消えてくれない。
「話は、まあ、一応理解したけど……それなら、どうして事前に話をしてくれなかったの?」
「話をしていたら、あれこれと理由をつけて断っていただろう?」
「それは、まあ……」
「だから、このような不意打ちにしたのだ」
「不意打ちすぎる……」
ブリジットは子供のように拗ねた。
聡明な王女ではあるものの。
彼女は、まだ若い。
子供らしいところが完全に消えているわけではない。
「どうする?」
「どうする、って……なにが?」
「見合いだ。本当に嫌ならば、今からでもなしにしよう」
「……それ、ずるい」
ゴルドフィアがそう言うのなら、本当になしにできるのだろう。
ただ、それが悪手であることは、ブリジットも理解できた。
見合いを持ちかけておいて、やっぱりやめます、なんて簡単にできない。
相手の面子を完全に潰すことになる。
ブリジットの相手となると、それなりの相手を選んでいるだろう。
敵に回すわけにはいかない。
「……あーもうっ! わかったわよ、受ければいいんでしょう、受ければ」
「助かる」
「まったく……でも、そこで終わり。それ以上はなしで、断るからね?」
「それでいい。ひとまず、お前が見合いをした、という事実が欲しいのだ」
「はぁ……」
ブリジットはため息をこぼす。
この話、アルムが聞いたらどう思うだろうか?
ショックを受けるだろうか?
あるいは、祝福するだろうか?
反応がとても気になる。
とはいえ、自分から口にすることはできない。
気軽に話せるようなことでもない。
恋愛経験値が皆無のため、こういう時は、めっぽう弱いブリジットだった。
「それで、お見合いの相手は?」
「よく知る……というほどではないか。お前も、知っている相手だ」
もしかしてアルム?
と期待するブリジットだけど、ゴルドフィアの口から告げられたのは別人の名前だ。
「隣国のジーク・ビアンコ・サンライズ王子だ」
◆◇◆ お知らせ ◆◇◆
さらに新連載です。
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